インテルは2010年1月からBYOD(Bring Your Own Devices)を推進してきた。インテルで使われているスマートフォンやタブレット機などのモバイル機器のうち、58%に当たる約1万7000台が個人所有の機器。同社によれば、BYODによって従業員は1人あたり1日57分、業務に使える時間が増えた。

 BYODの対象機器は、インテルの従業員が自前で購入したスマートフォン。タブレット機やMacOS搭載機などのパソコンもBYODの対象として接続を許可している。

狙いは従業員の生産性向上

写真●富澤直之情報システム部長
写真●情報システム部長 富澤直之氏

 インテルがBYODを推進する狙いは、従業員の生産性向上。インテルの情報システム部長 富澤直之氏は、「従業員には、自分が使いやすいと感じる最新のデバイスを業務に使うことで、生産性を上げてもらいたい。BYODは、このようなインテルの考え方から出てきた施策だ」と説明する。

 従業員は個人所有のデバイスをどう使っているのか。インテルでは、AndroidやiOSなど各プラットフォーム向けに、業務アプリケーションを7種類用意している。電子メールや設備予約などだ。現時点で一番使われているのは電子メールなどのメッセージング機能だという。「今後、BYODデバイスの上で稼働する業務アプリの種類を拡充する。その中で、デバイスの使われ方の幅が広がっていくと見ている」(IT@intelプログラム・マネジャー 邱天意氏)。

写真●IT@intelプログラム・マネジャー 邱天意氏
写真●IT@intelプログラム・マネジャー 邱天意氏

 インテルではBYODの推進によって、従業員は会議と会議の合間や移動時などの“すき間時間”を、業務のために有効活用できるようになったという。その時間の総計は、先に紹介したように従業員1人当たり1日57分。3月にインテルが開催した社内情報システムについての発表会では、1日当たり47分間としていた(関連記事)。「その後の調査で時間が増えたことが分かった」(富澤氏)。

コスト削減が目的ではない

 BYODについては「端末の購入コストが従業員のポケットマネーに移行するため、端末導入コストの削減が見込める」と言われる向きがある。この点についてインテルの富澤氏は「BYOD用の管理ソフトウエアなどインフラ投資があるため、効果と言えるほどのコスト削減にはならない」と説明する。「そもそもコスト削減は当社がBYODを実施する上での主な目的ではない。あくまで導入目的は従業員の生産性向上にある」と富澤氏は続ける。

写真●David Byrne氏
写真●IT ハンドヘルド・テクノロジー・スペシャリスト David Byrne氏

 従業員はBYODをどう受けとめているのか。邱氏は「従業員向けのアンケートを定期的に採っているが、BYODに対する従業員の満足度は高い。9割がBYODを支持している」と語る。「従業員にとって仕事がしやすい環境を整えることで、インテルにとってもメリットがある。Win-Winの関係を構築できたと自負している」(邱氏)。

 そもそもインテルがBYODに取り組み始めた発端は、数年前から言われていた「コンシューマライゼーション」の波が無視できなくなったこと。ここ数年、コンシューマ機器が高度化してかつ安価になってきた。「従業員から『自分がプライベートで使っている高性能な端末を仕事で使えるようにしてほしい』、という要求が増え、会社側は無視できなくなるだろうという見通しがあった」と富澤氏は説明する。

 そんな時に、当時インテルのCIOを務めていた副社長 Diane Bryant氏がIT部門に「BYODに取り組むべき」と声をかけ、本格的なスタートと相成った。インテルでモバイル機器のサポートを担当しているIT ハンドヘルド・テクノロジー・スペシャリスト David Byrne氏は、「元々インテルでは従業員に対して、携帯電話機器を業務で使えるようにするといったサポートをグローバルで実施していた。だからBYODに取り組むのは必然的な流れだったと思う」と振り返る。