要件定義フェーズでは、要件の内容に問題ないかどうかを確かめるため、利用部門のユーザーを交えてレビュー会を実施する。決める要件が多かったり、問題があったときに再度確認したりすることもある。そういった場合、レビュー会を繰り返し行うことは少なくない。

 PM(プロジェクトマネジャー)がこのレビュー会の日程を利用部門のユーザーと調整するときにやってはいけないことがある。それは、あるレビュー会を開こうとする場合、その都度レビュー会の日程調整を行うことである。その都度日程を調整すると、最終的に問題ないことの判断を下すキーパーソンが参加できないといったことが起こりやすい。そうなると要件がいつまでたっても確定できないという事態を招いてしまう。プロジェクトではさまざまな会議があるが、このレビュー会についての日程調整は特に注意が必要だ。

パッケージソフトベンダー勤務のPM、Sさんのケース

 中堅パッケージソフトベンダーに勤務するSさんは、営業管理パッケージの導入を担当するPMである。数多くの会社に対して、パッケージ導入を経験していた。Sさんが勤務するそのベンダーが、中堅メーカーP社に営業管理システムを導入するプロジェクトを任されることになった。Sさんはそのプロジェクトで、PMを担当することが決定した。

 P社の要望は「営業活動の見える化をするために、営業日報管理のシステムを導入したい」というものだった。プロジェクトは、パッケージソフトを基にシステム開発をすることになっていた。Sさんは、P社の要件と、パッケージソフトの機能のフィットギャップ分析を行い、カスタマイズ要件を明らかにし、追加開発の要件定義書を作成していくことにした。プロジェクトを効率よく進めるため、Sさんは、細かい要件のレビュー会を、要件が定義できた機能から順次行うことにした。レビュー会では、要件定義の作成状況を踏まえて、レビュー会の実施時期を決めることにした。

 ところが、要件定義ができたのに、レビュー会はなかなか実施できない。というのも、レビュー会に参加する、営業部門の責任者、K部長の都合がなかなかつかないからだ。

Sさん K部長、次の要件定義のレビュー会を再来週に実施しようと思うのですが、ご都合はいかがでしょうか?
K部長 あっ!ごめん。再来週はアメリカに出張が入っちゃった。申し訳ない。その翌週にしてもらえる?
Sさん えっ。出張ですか? では代わりに、H課長にレビュー会に参加していただいてよいでしょうか?
K部長 それは困る。今度レビューする要件はうちの部門でも非常に重要で、彼には十分なレビューができない。私が帰ってからにしてくれ

 K部長は、現場経験も長く、つい数年前までは現場の最前線にいた人物。要件の詳細に気になるようだった。Sさんにとって、K部長がレビューに対して積極的なのはありがたく感じていたのだが、K部長の予定はすでに会議や出張でなかなかうまく調整できなかった。

 そのたびSさんはK部長に、「K部長もお忙しいでしょうから、基本的な部分の要件だけでもH課長に権限委譲されてはどうでしょうか?」と促した。しかし、K部長は、「H課長ではレビューはできない」と主張するのである。ときには「あのレビュー会を変更してくれ」という日程変更の依頼も多発してきた。結局、要件定義フェーズは大幅に遅れて、Sさんはプロジェクトのスケジュールやコストを大幅に見直す必要に迫られてしまった。