要件定義フェーズでは要件定義の内容を対象にしたレビュー会を行う。この場で、PM(プロジェクトマネジャー)が要件内容を説明しても、ユーザーから特に反対意見が出てこない時がある。このときPMは「この要件に対しては承認された」と普通は考えるだろう。

 しかしここで安心してはいけない。後日、メールとか別の会議で「実は、あの機能では不十分だと思っていました」「この機能がないと絶対に問題になるよ」と、利用部門のユーザーから言われることがあるからだ。

販売管理システムのPMを担当したTさんのケース

 中堅SIベンダーに勤務するTさんは、入社8年目。販売管理システム開発の経験が豊富だ。そのTさんがメーカーL社の販売管理システム開発プロジェクトに、初めてPMを担当することになった。「これまでの経験を生かしてがんばろう」。Tさんは意気込んでプロジェクトをスタートさせた。

 要件定義フェーズでは、ユーザーへのヒアリングを行い、受注、出荷、売上計上といった基本的な機能の要件を決めた。受注機能については営業部門、出荷は物流部門、売上計上については経理部門と、それぞれ要件を詰めていった。それぞれの基本的な要件はスムーズに固めることができた。そこでTさんは1回目のレビュー会を利用部門の管理者とユーザーを交えて実施することにした。基本的な機能ではあるものの、受注、出荷、売上計上と関連する部分が多かったため、レビュー会には、営業、物流、経理の各利用部門の管理者とユーザーに、L社側から参加してもらうことにした。

 Tさんは、営業管理システムの経験はあったものの、PMとしてレビュー会に参画するのは初めて。緊張してはいたものの、Tさん側のITエンジニアが要件を一つずつ丁寧に説明。利用部門のユーザーから投げかけられた質問にもしっかり答えていった。利用部門のユーザーから細かな指摘はいくつか出てきたものの、大きな問題や反対意見などは出なかった。

 「よかった。今日は順調だ。このまま問題なく終われそうだ」。レビュー会を始めて1時間もすると、Tさんの気持ちに余裕が出てくる。そこでTさんがふとレビュー会に参加している人を見回してみた。するとユーザーの様子が気になって仕方がなくなってきた。

 眉間にシワを寄せて首をかしげながら説明資料を何度もめくる人、資料も見ようともせずに腕を組み「分かっていないなぁ」と言わんばかりに首を左右に振る人、隣に座っている人と資料を指さしながらヒソヒソ話しをしている人・・・。明らかに「質問がある」「意見したい」という態度を示している人が少なからずいた。

 そんな利用部門のユーザーの様子を見て、Tさんも良い気はしない。ユーザーに対して「これまでの内容で何かご質問や問題点はありませんでしょうか?」「分かりにくい説明だったかも知れませんが、ぜひ現場の方々から貴重なご意見を頂戴できますか?」と問いかけた。

 それにもかかわらず、利用部門のユーザーからは「質問は、特にありません」という声が返ってくるのみ。Tさんはとても不安だったが、そう言われるとそれ以上問いかけることはできない。結局大きな問題を指摘されることなく、レビュー会は終了した。

 しかしその後が大変だった。後日、物流部門の管理者とユーザーだけが集まる要件レビュー会で、「この受注の機能要件を許すと物流部門にしわ寄せが来るので、大きな問題ですよ」と、指摘されたのだ。「先日のレビュー会で受注の機能要件を示したはず。それなのになんで今になって反対意見がでてくるんだろう」。Tさんは納得いかなかったが、Tさんは、受注営業部と物流部の調整に大きな時間を要し、要件定義レビューを期限内に終わらすことができなかった。