食品卸の伊藤忠食品は、これまで日本でこなしてきた単純な事務処理を海外に業務委託し、抜本的なコスト削減を進めている。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれるものだ。なかでも「アセアンBPO」に意欲的である。

 先進企業は既に中国の大連など、日本語入力が可能な人材を数多く確保できる地域にBPO目的で進出している。伊藤忠食品もその1社だ。2008年12月と早い段階から、卸業界の先陣を切って委託を開始した。3000社ある仕入れ先向けの伝票入力を、大連に拠点を構えるインフォデリバ(東京都港区)にBPOしてきた。

属人化していた業務をマニュアルに

 伊藤忠食品と取引する食品会社はそれぞれ個別に伝票を用意しており、フォーマットも処理ルールもバラバラで、業務が属人化していた。そこで伊藤忠食品はこの部分を丹念にひも解いてマニュアルに落とし、誰にでも理解できるレベルまで簡素化してから、業務を大連に移管した。

 これにより、ピーク時には1日に4500枚の伝票処理を可能にし、かつ人件費を日本で実施していた時に比べて23~25%削減できた実績がある。

 ただし、近い将来に予想される中国での人件費の高騰や災害対策といった一極集中のリスクに先手を打つべく、伊藤忠食品はいち早く動き出した。目を付けたのは発展が著しいASEAN(アセアン)地域、なかでもベトナムだ。

委託先を教育する覚悟で未開の地に進出

 漢字文化圏の中国に比べて、ベトナムは言語の面で日本語入力を伴うBPOを実現するハードルが一段と高くなる。大連ほどのBPO基盤もまだ整っていない。それでも伊藤忠食品は自らがファーストユーザーになる覚悟まで決めて、ベトナム企業へのBPOを2010年8月に決断した。

 相手はベトナム最大手のIT企業であるFPTテレコムの子会社FISである。拠点はベトナム中部の街、ダナンにある。お互いに日本とベトナムを行き来しながら、一から業務を教え込むことが必要になった。

 両社は二人三脚でBPOに取り組んでいる。決して相手任せにはしない。伊藤忠食品はベトナム人を日本で受け入れ、BPOの対象に定めた買掛金の照合業務のノウハウを伝授していった。おかげで業務のミス率は1%以下と、既に日本で実行するのと遜色ないレベルに達している。人員も20%削減できた。

●伊藤忠食品は中国だけでなく、ベトナムにも事務処理をBPOしている
●伊藤忠食品は中国だけでなく、ベトナムにも事務処理をBPOしている

 伊藤忠食品でBPOを推進する、関連会社のISCビジネスサポート(東京都中央区)の牛尾勝之代表取締役社長は「ベトナムの若者の学習意欲は非常に高い」と太鼓判を押す。2012年はアセアンBPOを一段と強化していく計画だ。