ユーザー企業はどのように、ITを経営に生かすべきか――。日本情報システム・ユーザー協会が実施した「企業IT動向調査2012」の結果を基に、2012年度に採るべきIT戦略を示そう。今回は、スマートフォンやタブレット端末などの「ポストPC」端末と、クラウドコンピューティングに焦点を当てる。

 ビッグデータやクラウド、スマートフォンなど、新しいIT活用のコンセプトやそれを実現する製品・サービスが、次から次へと登場している。視点を経営サイドに移してみると、事業のグローバル化は避けられない。激変する為替相場や急騰する資源など、様々な経営環境の変化に企業は迅速に対応していく必要がある。

 ユーザー企業のシステム部門は、こうした変化を的確にとらえ、IT戦略を立案・実行していく必要がある。その一助となるため、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の最新の調査結果「企業IT動向調査2012」(調査概要は文末の別掲記事を参照)のポイントを、4回に分けて紹介する。

 今回はスマートフォンやタブレット端末といった「ポストPC」端末の採用動向、クラウドコンピューティングの利用状況、2012年度のIT投資動向について解説しよう。

3社に2社がポストPCにシフト

 スマートフォンやタブレット端末などのポストPC端末が、本格的に企業で利用されつつある。今回の調査(2011年度)では、回答企業の3社に2社が、スマートフォンやタブレット端末を「導入済み」または「試験導入/導入準備中」「検討中」だ(図1)。

図1●スマートフォンとタブレット端末の導入・検討状況の推移
図1●スマートフォンとタブレット端末の導入・検討状況の推移
スマートフォンとタブレット端末のいずれも、2011年度は「導入済み」と「試験導入/導入準備中」「検討中」を合わせた割合が6割を超えた

 スマートフォンは「導入済み」が19.0%、「試験導入/導入準備中」が16.1%、「検討中」は29.7%である。タブレット端末は、順に13.8%、19.9%、32.2%だ。これらの合計値を前回調査(2010年度)と比較すると、スマートフォンは15.5ポイント、タブレット端末は21.4ポイントも増えた。採用事例が増えてきたことや、端末を管理するMDM(モバイルデバイス管理)サービスが拡充してきたことなどが、企業がポストPC端末の採用に積極的になっている背景にあるとみられる。

 特に2012年度は、タブレット端末の導入が一気に進みそうだ。導入予定時期を聞いたところ、どの企業規模においても、「2012年度」と回答する割合が高かった(図2)。特に大企業が積極的だ。売上高1000億円以上1兆円未満の30.1%、同1兆円以上の27.9%が、2012年度にタブレット端末を導入すると回答した。

図2●タブレット端末の導入予定時期
図2●タブレット端末の導入予定時期
タブレット端末の導入時期は、どの企業規模(売上高別)でも2012年度の割合が高い

 タブレット端末の用途も、今後3年間で大きく変わる(図3)。現状は「メール、スケジュール管理のため」(59.7%)、「顧客へのプレゼンテーションのため」(56.9%)といった、情報の閲覧が主流である。「業務システムの端末として」の利用は19.1%にすぎない。ところが、3年後は一変する。58.5%が「業務システムの端末として」の用途を想定している。

図3●タブレット端末の主な用途(複数回答)
図3●タブレット端末の主な用途(複数回答)
現在はメールやプレゼンテーション端末が主な用途だが、3年後には業務システムの端末として本格的に使われるようになる

 シンクライアントとして利用できるようにしたり、タッチパネルの操作を前提に画面を設計したりするなど、システム部門は今後、企業システムでタブレット端末を利用することを想定しながら、システムを企画・開発する必要があるといえる。

 タブレット端末を企業システムで使う課題としては、「盗難や紛失のリスクが高くなる」が最も高く、回答者の66.9%(複数回答)が挙げる。これに「セキュリティ対策が難しくなる」(64.0%)、「公私の利用区分の境界が曖昧になる」(46.7%)が続く。