第2回までは、顧客企業の視点から、「ビッグデータ」ブームの影響を考察してきた。今回は、ビッグデータが日本のITベンダー/システムインテグレータ(SIer)でどのような商談を生んでいくのかを考えていこう。

 「The Next Big Thing(次の時代に来るもの)」――。IT業界においては、クラウドの次のThe Next Big Thingとして、ビッグデータへの期待が高まっている。

 実際、ITベンダー22社トップの年頭所感を見ると、クラウドと並んでビッグデータを重視する企業が目立っている。「ビッグデータ」「大量のデータ」といったキーワードを挙げているベンダーを数えたところ、22社中10社という結果であった。

 The Next Big Thingとしてビッグデータを推すIT業界の商材としては、次のようなものがある。

(1)ストレージ
(2)大規模DWH(データウエアハウス)
(3)BI(ビジネスインテリジェンス)や統計解析ツール
(4)クラスタ構築などのHadoop関連ソリューション
(5)データ分析のコンサルティング/受託業務

 他にもデータ統合やデータのクレンジングなどもあるが、大きいものは前述の5つだろう。そこで今回は、これらの商材別に特需の有無を考察し、日本のSIer、ベンダーがどのような戦略を立てるべきか、考えていく。

追い風は見込み薄のDWH、BI市場

 (1)の「ストレージ」需要と、ビッグデータとのつながりは理解しやすい。ただし、「特需」というほどのインパクトを及ぼすかどうかは疑わしい。元々データ量は増加トレンドにあり、ビッグデータという言葉がはやったくらいでは、さらに増加トレンドを急峻にするほどのインパクトはないと推定される。

 (2)の「大規模DWH」についてはどうか。海外の大手ベンダーはDWHベンチャーを相次いで買収している。米IBMの米ネティーザ(Netezza)買収、米EMCの米グリーンプラム(GreenPlum)買収、米ヒューレット・パッカード(HP)の米バーティカ(Vertica)買収などだ。

 しかし野村総合研究所がユーザー企業の情報システム部門を対象に2012年2月に実施したアンケート結果を見ると、ビッグデータが大規模DWHの購入を後押ししているとは考えづらい。DWHを「1年以内に新規に導入予定」とした回答者は全体の1.6%にすぎないからだ(図1)。「2~3年後に新規導入予定」も2.8%にとどまった。しかも「導入予定なし」が約4割に上っている。

図1●データウエアハウスの導入状況
図1●データウエアハウスの導入状況

 ベンダーとしては、新規導入を狙うよりは、導入済み企業が再構築や更新に差しかかるタイミングでビッグデータを想定した大規模DWHを提案するのが妥当であろう。

 (3)の「BIや統計解析ツール」に関しても同様で、すぐに大きなビジネスになるとは考えづらい。(図2)。「1年以内に導入予定(2.4%)」、「2~3年後に導入予定(2.1%」)を合わせても5%以下であり、「導入予定はない」とする回答者が43.2%もあった。

図2●BIツール/ソリューションの導入状況
図2●BIツール/ソリューションの導入状況

 しかも、(1)~(3)の商材すべてに言えることだが、この分野の主要製品はEMC、米オラクル、IBM、独SAPなど海外ベンダーの製品である。日本のベンダーにとってはあまりうまみのある市場ではない。