滅多に見かけない版型を本書が採用したのは、「ビジネスモデルキャンパス」と呼ぶツールを表示するためである。「このツールは、画家のキャンパスと似てい」て、「顧客セグメント」「価値提案」「顧客との関係」「主要活動」「パートナー」「収益の流れ」「コスト構造」など「九つの構築ブロックにあらかじめ分かれており、そこにビジネスモデルの絵を描く」ものだ。

 著者たちはキャンパスを「ビジネスモデルを記述、ビジュアライズし、評価、変革するための共通言語」だと述べている。1枚の絵で事業の構造を表現でき、それを見ることにより「全員が同じスタート地点にたち、同じ言葉を使う」ことが可能になるからだ。

 この共通言語は情報システムの開発と運用にも役立つ。実際、ITリサーチ大手のガートナーはITとビジネスプロセスを連携させるために、CIOたちにビジネスモデルキャンパスを使うことを勧めている。「戦術的な問題に深く立ち入りすぎることなく意思決定」ができるという。ビジネスの全体像を把握したい情報システム担当者やSEが使ってももちろんよい。

 キャンパスに描く九つの構築ブロック、ビジネスモデルを考えるときに役立つパターン、デザイン手法、モデルづくりのプロセスを本書は分かりやすく説明している。キャンパスの上に表示される具体例は、PC、携帯電話、Webといった消費者向けIT製品やサービスが中心で、本誌読者におなじみのものばかりだ。ある大手メーカーの情報システム担当者が集まってグローバルな情報の流れを整理した例も登場する。

 本書は「挑戦者のためのハンドブック」であり、実際に絵を描くときに使う。記載されているお勧めの使い方はこうだ。まずビジネスモデルキャンパスを大きく印刷して、その上でメンバーが付箋紙やボードマーカーを使って一緒にスケッチを始め、ビジネスモデルの要素を理解、議論、創造、分析していく。

 キャンパスにスケッチする楽しさを読者に実感してもらおうと、本書にはイラストや図、大判の写真が満載されている。ざっとめくってから、自分が関わっているビジネスのモデルを描き、周囲の人に見せるところから始めてはどうだろう。デザインはビジネスパーソンにとって自然にできることではない、という主旨の説明がある通り、練習が必要である。厚さ2センチを超える本書の文字量は少なく、通読しても2時間程度で済むが本棚にしまってはもったいない。もっとも版型が異例なので本棚には並べにくい。

ビジネスモデル・ジェネレーション

ビジネスモデル・ジェネレーション
アレックス・オスターワルダー/イヴ・ピニュール著
45カ国の470人の実践者共著
小山 龍介訳
翔泳社発行
2604円(税込)