◆今回の注目NEWS◆

年金システムの開発が1年以上ストップ
(日経コンピュータ、3月15日)


◆このNEWSのツボ◆

 オープン化を目指す次期年金システムの開発が1年以上ストップしているらしい。記事によれば、次期年金システムは基本設計の一部をやり直す「補完工程」は、
 (1)工程管理支援 (2010年7月契約、2011年3月終了)
 (2)システム基盤設計 (2010年8月契約、2011年2月契約解除)
 (3)アプリケーション設計(2010年10月契約、2011年7月終了)
の三つに分けて進められてきた。

 このうち(2)のシステム基盤設計が、制度改革自体の内容が固まっていないことに加え、受託企業が設計の難易度を過小評価していた可能性もあって開発を断念し、再発注がなされないままになっているという。残りの二つについては無事終了しているそうである。

 しかし、どうも腑(ふ)に落ちない。「システム基盤設計」というのは、システム設計の最も根幹の部分ではないのだろうか。そちらが固まっていないのに、アプリケーションの設計が終了しているというのは、いくら基盤とアプリケーションは別とは言っても、ちょっと判然としない。それともアプリケーションを業務要件だけで設計したのだろうか。

 また、途中で投げ出されたプロジェクトがあるのに、工程管理支援のプロジェクトは終了している。一体何の工程を管理していたのだろうか。いずれにせよ、対象のプロジェクトが大きい割に開発内容と開発成果が分かりにくいのは事実である。

 もともと年金システムについては、様々な疑念が呈されてきた。年金システムは年間の維持運用に1000億円近い費用がかけられている我が国有数の巨大システムだが、データ量やトランザクション量からして、そもそもこれだけの巨費が必要な理由がよく分からないし、システムの中身も依然としてブラックボックスに近い(参考記事)。

 また一昨年、当時の「消えた年金がライフワーク」の厚生労働大臣の掛け声で始まった「年金記録照合」作業も、データ漏洩で逮捕者まで出し、1000億円を超える巨費を投入したにもかかわらず、途中で作業を断念したようである。

 どうも年金がらみのシステムでは、見えないこと、理解しがたいことが頻発する。そして、これらの事業に投入されているのは“足りなくなること必至”で、消費税上げにもつながってくる年金原資や税金ではないのだろうか。

 今回のシステム開発失敗の話も、そもそも発注の方法や内容は適切だったのか。業者が難易度を過小評価していたのではないかとされているが、いったいどのような発注と評価がされたのか。もっと公明正大に検証されるべきではないかと思われてならない。社会保険庁が日本年金機構に改組されて不透明度が増したような印象さえ受ける。今回の事案をきっかけに、もっと徹底的にスポットライトが当てられることを望みたい。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト 取締役 事業提携担当、
スタンフォード日本センター理事
安延申
通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト取締役 事業提携担当、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。