米国オバマ政権は、安全でオープンで効率的な行政運営のために、国家IT投資の政策・戦略を担う「連邦CIO(情報統括官)」を2009年に設置した。初代連邦CIOとして政府IT基盤でのクラウドサービス活用やオープンガバメント政策を推進したヴィヴェク・クンドラ氏に、政府IT投資のあるべき姿や政府CIOが果たすべき役割について聞いた。(聞き手は日経BPガバメントテクノロジー編集長、井出 一仁)

米国初の連邦CIOとして最初に取り組んだことは。

前・米連邦CIO(情報統括官) ヴィヴェク・クンドラ氏(写真:栗原 克己)
前・米連邦CIO(情報統括官) ヴィヴェク・クンドラ氏
(写真:栗原 克己)

 政権移行チームの発足時に力点を置いたのが、技術、イノベーション(変革)、政府改革の3点です。特に国民にとって効果的なサービスを展開するために、政府のIT投資が本当に有効活用されているのか精査することから始めました。

 当時の政府IT予算は年間800億ドル(約6兆4000億円)で、そのうち240億ドルがデータセンターなどのインフラ整備に投じられていました。しかし個々のプロジェクトを精査していくと、開発の遅れや予算オーバーが多発していました。

 例えばデータセンターの数は10年間で432から2094に増大していましたが、平均稼働率は27%以下。ある省では200のセンターを抱え、13のメールシステムを運用していました。

 そこで最初に手がけたのが「透明性の確保」で、そのために開発したのが連邦政府のIT支出を公開するサイト「ITダッシュボード」です。

透明性確保は「オープンガバメント政策」の柱の一つですね。

 ITダッシュボードでは、個々のプロジェクトのコスト、スケジュール、担当CIOの自己評価の3要素を表示しています。それぞれ計画値とのかい離度合いなどを基に判定し、緑・黄・赤で色分け表示されるので一目瞭然です。加えて、担当CIOの顔写真も掲載しました。

 国民の税金が本当に理にかなった使われ方がされているのか、その責任を負う政府高官は誰なのかを、明確に可視化したわけです。これによって、国民にメリットを生み出していないプロジェクトは中止や縮小に至り、わずか半年で30億ドルものIT支出を節約できました。

 これまで政府では、多くの部下を抱え、たくさんの予算を確保できる人が優秀であり、昇進の機会が与えられていました。しかし今は、より小さくすることが称賛に値するという考え方に変わりつつあります。

政府のIT基盤投資の第1の選択肢としてクラウドサービスの活用を原則とする「クラウドファースト」も、ITコスト削減の一環ですか。

前・米連邦CIO(情報統括官) ヴィヴェク・クンドラ氏(写真:栗原 克己)
前・米連邦CIO(情報統括官) ヴィヴェク・クンドラ氏
(写真:栗原 克己)

 クラウドファースト政策は、政府ITのコンシューマライゼーションを目指したものです。

 米国民の日常生活では、宅配荷物の追跡やネットショッピング、航空券予約など、シンプルなオンライン画面で様々なことができます。ところが行政サービスとなると、長い行列に並んだり、電話を長い時間保留されたり、多くの書類をそろえて申請書を提出しなければならず、民間サービスとは大きな差があります。

 そこで民間で活用されているITのコンシューマライゼーションを政府に持ち込もうとしたわけです。

 連邦政府のIT予算の大半はレガシー投資にとどまっていました。仕様を決めて入札で契約業者を選び、5年かけて開発して、ようやく使い物になるようなプロジェクトが多かったわけです。でも中小企業の経営者なら、そんな手間はかけません。クラウドから必要な仕組みを選んですぐに使うのがトレンドです。政府関係者がそうした変化を理解し、その波に乗るのが重要と考えました。