スマートフォン向けサービスのコンテスト「A3 2012」。グローバル賞には「MikuMikuStudio Tiny AR」、イメージング賞には「写真袋」、Beyond Android賞には「NFC QUEST」が選ばれた。

“踊る初音ミク”を世界に発信
<グローバル賞>MikuMikuStudio Tiny AR
作者:小林一彦

 初音ミクはご存じのとおり、日本が世界に誇るバーチャルアイドル。「MikuMikuStudio Tiny AR」は、元々PC版で人気を博している3DCG作成フリーソフト「MikuMikuDance」(樋口優氏作成)を、「Androidで実行できたら楽しいのではないか」との思いから小林氏が制作した。「グローバル賞」を審査したソニーモバイルコミュニケーションズの面々も満場一致で決定したという。

 Android端末の画面上で3Dの初音ミクが音楽に合わせて踊り、端末の動きに合わせて自由に回転する。

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写真●端末を傾けるとリアルタイムで視点の位置が変わる
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 キャラクターの動きはリアルタイムの3Dレンダリングにより実行。その動きは非常になめらかで、見ているだけで面白い。ただし、今回試したXperia acro HDは最新のハイスペックなスマートフォン。MikuMikuStudio Tiny AR がAndroid OS 2.2以上に対応するとはいえ、グラフィック性能が低い端末で同様の結果になるとは限らないので注意が必要だ。

 プリセットのモデルは、初音ミクのほか鏡音リン、巡音ルカ、亞北ネルなど9つ(2012年4月末現在)だが、MikuMikuDanceとデータ互換性を持ち、MikuMikuDanceで作成された膨大なモーションデータ、PMDモデルをインターネットからダウンロードし、読み込んで使用できる。

 もう1つの魅力はカメラとの連動。端末のカメラを立ち上げると自動で背景が合成され、AR(拡張現実)のような見た目になり、キャラクターを動かす楽しさが倍増する。例えば風光明媚な景勝地をバックに踊る初音ミク、といったシーンが楽しめる。

写真●カメラとの連動により背景を合成。ARのような雰囲気を楽しめる
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写真●風光明媚な景勝地をバックに踊る初音ミク
ミクのモデルデータはプリセットにはないLat式ミク。MikuMikuDanceのデータであればインターネットからダウンロードして動かすことができる。小林氏のプレゼン資料より引用
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 このアプリのために、小林氏は新たにオープンソースの3Dエンジンとアプリの統合開発環境「MikuMikuStudio」を開発した。「こういうアプリを作るのは非常に大変。とくにAndroid端末は機種依存が非常に多いため、さらに手間がかかる。しかし、この開発環境が面倒な部分を引き受けてくれるため、初心者でもTiny ARのようなアプリを作成できる」(小林氏)。

写真●MikuMikuStudio
オープンソースの3Dエンジンとアプリの統合開発環境
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 MikuMikuStudio Tiny ARは開発環境のMikuMikuStudioを利用したサンプルアプリという位置づけであり、今後、開発者がMikuMikuStudioを利用して積極的にアプリを開発してくれることを願っているという。一年後には、作者の想像を超えた多様な世界が広がっているかもしれない。

作者に聞く

小林一彦氏
小林一彦氏(撮影:菊池くらげ)

アプリを開発されたきっかけは。

 昨年の震災の、あまりの惨状にショックを受けている時に耳に入ったのが初音ミクの歌声でした。それがきっかけとなり開発を始めました。

苦心された点は。

 やはり機種依存ですね。トラブルが起きるたびにチップ開発元の米QUALCOMMや米Imaginationのエンジニアと共同で問題解決にあたりました。向こうと時差があるのできつい作業でした。

 QUALCOMMやImaginationとコネクションはなかったのですが、動かないプログラムを送ったところメーカーにしか無いハードウエアデバッガで原因を調査してくれました。チップ内部まで調べないと分からないような不具合も多かったため、メーカーの協力なしにはこの作品は完成しませんでした。

 これだけ親切に対応してもらえたのもミクさんの人徳かなと思っております。

ユーザーに向けてのメッセージを。

 MikuMikuStudioはアプリ開発環境です。今後Tiny AR以外にもいろいろ作っていきますので、よろしくお願いいたします。また、MikuMikuStudioは無料で公開しておりますので、これを使って皆様にもぜひ優れたAndroid用アプリを開発していただきたいと思います。