議論が脱線したり過度に白熱したりして、会議の終了時刻になっても結論が出ないことがある。いくつかの議題が積み残しになることもある。あらかじめ議題ごとに、議論をするだけか結論まで出すかといったゴールを決めておいても、そこまで行き着けるかどうかは、議論の成り行きに大きく影響される。しかしどんな場合でも、会議のゴールを安易に変更してはいけない。このことを象徴する事例を以下に示そう。

 PMのAさんは、開発チームのメンバー数人と利用部門の代表者であるBさんを集めて会議を開催した。この会議では、これまでに作成した20ページの要件定義書の読み合わせを行う。Aさんは会議のゴールを、要件定義書の内容について利用部門との認識のズレを洗い出すことだと設定していた。

 会議の冒頭でAさんが「今日の会議は2時間です。要領よく認識のズレを洗い出しましょう」と切り出すと、Bさんは「時間に余裕はないからさっそく取りかかりましょう」と答えた。序盤は確認作業に手間取ったが、徐々に慣れてきてほぼ予定通り進んだ。しかし落とし穴は、折り返しとなる10ページ目に待っていた。

 Bさんが「う~ん…」と唸り、「このデータチェックの要件は悩ましいな。さっきの要件と矛盾してしまう」と声を上げた。Aさんら開発チームにとってこの指摘は心外だった。データチェックの要件は、前回の会議で指摘し、念を入れて確認してもらっていたからだ。そのことを伝えると、Bさんは「確かに指摘を受けたけれども、こうして具体的な条件を見て初めて気付くこともある。このままだと問題があるから、直してくれないかな」と悪びれずに言った。

 内心穏やかではないAさんが「どのように直しますか?」と尋ねたところ、Bさんは立ち上がってホワイトボードに複雑な判定条件を書き始めた。その判定条件を見たAさんは、「その内容では実装できませんよ。この場合は、もう1つ手前の操作で…」というように詳細な中身の議論を始めてしまった。そうこうするうちに時間はあっという間に過ぎ、残り10ページは手つかずのまま会議の終了時刻となった。Aさんは「明日、続きの会議をやりましょう」と提案したが、Bさんは予定が埋まっているとのこと。結局、会議は翌週にずれ込み、1週間のスケジュール遅れを発生させてしまった。

 会議がうまくいかなかった原因は、Bさんだけにあるわけではない。進行役のAさんにも、改善すべき点はある。それは、会議のゴールを「認識のズレを洗い出す」から「認識のズレがある項目について議論する」に変えてしまったことである。

 Aさんは、認識のズレを洗い出すというゴールを設定して、2時間という会議時間を設定した。そのとき、認識のズレがある項目について突っ込んだ議論は想定していなかった。突っ込んだ議論をすれば、時間が足りなくなるのは必定である。そのため、Bさんがホワイトボードに判定条件を書き始めたとき、「今回は修正内容について議論することよりも、認識のズレを洗い出すことを優先しましょう」と言うべきだった。その上で、会議の時間が余れば、ズレのあった部分を議論すればよかったのである。

 会議のゴールを達成するには、参加者全員がそれを意識してゴールに向かうように努めることが重要である。進行役のPMは参加者に対して繰り返しゴールを再認識させ、その達成のために何をすべきかを意識付けしたい。

山中 吉明
東京海上日動システムズ
プロジェクト推進本部 開発品質管理部 プロデューサー
業務システムの開発プロジェクトにおいて主に設計担当者として経験を積んだのち、2000年ごろからプロジェクトマネジャーを務める。手掛けたプロジェクトは数十件に上る。現在は、グループ会社の開発標準策定に従事。