進行役のPMが描いたシナリオどおりに会議を進めるのは簡単ではない。特に注意すべきは、自分の主義主張を延々と語り始め、独演会にしてしまう参加者だ。論点が外れて時間が無駄に過ぎていく。そんな独演会になりかけた会議をうまく軌道修正した事例を以下に示そう。

 PMのAさんはチームメンバーを集めて、システムテストで発見された障害の対策会議を開催した。参加者は、Aさん、PMOのBさん、サブリーダーのCさんなど総勢8人である。システムテストは終盤に入っており、完了予定日が2日後に迫っていた。今回発見された障害は、調査の結果、ある特定の条件が重なると発生することが分かった。本番環境ではその条件に合致するケースは極めて少ないとの意見が大半である。しかしその事象が発生すると、システム全体がダウンする。リスクを回避するには、さらに調査を進めて改修を実施しなければならない。

 Aさんは、どのように対処すべきか悩んでいた。対処方法には二つの選択肢があった。一つは、重大な欠陥が見つかったと認識し、システムテストの完了期限を延期すること。もう一つは、本番環境で発生する可能性は極めて小さいとして、完成を優先させ後日改修することである。Aさんは、会議の参加者にこれら二つの対処策について説明し、参加者に意見を聞いた。

Aさん「Cさんは、どうしたらいいと思いますか?」
Cさん「改修作業のメドが立つまで、あと1日ください。その上でどちらの対処策を選ぶのかを決めるのがいいと思います」

 Cさんからのこの発言に、Bさんが噛みついてきた。

Bさん「あと1日延ばしてもほとんど進展しないでしょう。意味ないですよ。今回のケースは本番では絶対起きないと思う。このままリリースしても問題ないレベルです」
Aさん「まあ、待ってください。重大な障害につながる可能性がありますから、もう少し慎重に判断して結論を出したいのですが」
Bさん「そんなことを言っている時間はないでしょう。1カ月前に分かったのならいいが、この期に及んでは即決するしかありません。そもそも、このプロジェクトの重要性を理解しているのですか。利用部門からあれほどリリースの延期は許さないと念押しされているのを知らないわけではないでしょう。1週間前にも私は…」

 Bさんは決して悪気があるわけではないが、自分の考えに絶対的な自信を持っており、周囲の意見を聞く姿勢に欠けていた。会議の場になると、Bさんは大きな声で自分の考えを押し通す傾向があった。今回も、その展開となった。こうなると、他のメンバーは反対意見がなかなか言えない。

 Aさんは独演会の状態を解消するために、「Bさんのおっしゃることを確認させてください」と話を遮り、ホワイトボードに「システムテストの完了期限を延期する」「完成を優先させて後日改修する」という二つの選択肢を書いた。その上で後者を指し示し、「Bさんはこちらの対処策を支持している、ということですよね。おっしゃるとおり、テスト完了期限まであと2日しかありません。この期に及んで延期するのは難しいという意見に同感です」と言った。Bさんは大きく頷いて「そういうことです。利用部門にはあえてこの障害を説明しなくてもいいと思います。説明すると、かえって心配させることになりますよ」と冷静さを取り戻して話した。Aさんは「利用部門にどのように伝えるかは、もう少し深い議論が必要かもしれません。この場ではなく、会議のあとで相談させてください」と言ってその場を収めることができた。

 このように、独演会をやめさせるには、相手の考えを理解し受け入れていることを示すことが重要である。この手順を省略すると、相手はさらに熱を帯びて話し始めるものだ。Bさんのように主張の強いタイプの人は、議論を引っ張る影響力を持っている。しかし、その人が必ずしも正論を述べているとは限らない。あるいは、慎重な判断を必要とするとき、拙速な判断を招く恐れもある。進行役のPMは、常に冷静に議論の内容を吟味し、正しい判断が行われるように導かなければならない。声の大きい人の言動に感情的に反応するのではなく、その人の主張にきちんと耳を傾け、適切な状況判断をしていく冷静さが求められる。

山中 吉明
東京海上日動システムズ
プロジェクト推進本部 開発品質管理部 プロデューサー
業務システムの開発プロジェクトにおいて主に設計担当者として経験を積んだのち、2000年ごろからプロジェクトマネジャーを務める。手掛けたプロジェクトは数十件に上る。現在は、グループ会社の開発標準策定に従事。