会議を開催するとき、あの人もこの人もとりあえず参加してもらったほうがいい、と参加者を選びがちである。その場合、参加者はあまり関係のない話をわざわざ時間を費やして聞くことになる。会議の目的や議題を考え、参加する必要がある人だけに依頼することが大切である。安易に参加者を選んでしまったために失敗したAさんのケースを紹介しよう。

 PMのAさんは、担当プロジェクトの要員計画と予算計画を説明する会議を開催することにした。その際、参加者として、上司であるBさん、関係の深いプロジェクトのPMを務めるCさん、予算管理課のDさん、品質管理課のEさん、Eさんの上司であるF課長を選んだ。

 そして会議当日。議事は滞りなく進み、最後にAさんは「何かご質問はありませんか?」と参加者に質問を促した。すると突然、品質管理課のF課長が立ち上がり、「この会議になぜ私が呼ばれたのか、理由がさっぱり分からない」と言い残して、会議室を出て行った。

 突然のことにAさんは唖然としたが、何とかその場を取り繕い、会議を終了させた。その後、Aさんは上司のBさんに声をかけられ、二人でことの顛末を振り返った。

Aさん「私は何かまずいことをしてしまったのでしょうか?」
Bさん「どうしてF課長を会議に呼んだのか、理由がよく分からないな」
Aさん「ええっと、プロジェクトの概要を説明するので、品質管理課の方にも聞いてもらった方がいいかと思いまして…」
Bさん「それなら、直接の担当者であるEさんだけでよかっただろう。どうしてF課長にも声をかけたの?」
Aさん「Eさんに会議参加の打診をしたとき『F課長にも声をかけますか?』と聞かれたので、あまり深く考えずにお願いしてしまいました」
Bさん「Eさんにも責任の一端はあるかもしれないが、今回の会議の内容であれば、F課長にわざわざ会議に参加してもらう必要はなかったな。資料と議事録を送付すれば事足りたと思う」
Aさん「言われてみれば、そのとおりです。申し訳ございません」
Bさん「F課長にはあとで一緒に謝りに行こう」
Aさん「すみません、よろしくお願いします」

 Aさんは、成り行きで会議の参加者を選定してしまい、多忙な中で時間を割いて参加したF課長の機嫌を損ねてしまった。会議を開催する目的は、参加者にとって有用な情報を対面で共有し、意見交換や議論をすることである。集まることで、書面では伝わりにくいニュアンスまで伝達したり、互いの反応を見ながら議論したりできるといったメリットがある。単なる情報の周知であれば、書面で伝えるだけで十分な場合が多い。「関係するから参加してもらう」という基準で参加者を選ぶと、参加者の貴重な時間を奪うことになる。

 その会議への参加が本当に必要かどうかは、それぞれの役割を考えると判断しやすい。Gさんは自分の後ろ盾、Iさんは要員計画と予算計画の整合性のチェック、といった具合である。何の役割もない人がいたら要注意だ。改めて参加の必要性を考えてみよう。ただし合意形成のために、明確な役割がなくても、参加してもらった方がいい場合もある。判断に迷う場合は、上司や関係者に相談するとよいだろう。

 「そんな話は聞いていない」と言われたくないために、できるだけ多くの参加者を集めるという考え方をしているかもしれない。それは正しい判断をしているのではなく、本当に必要な参加者の選定を放棄しているにすぎない。このことをよく認識したい。本当に必要な参加者が誰であるかをしっかり考えることが、会議の成功につながるのだ。

山中 吉明
東京海上日動システムズ
プロジェクト推進本部 開発品質管理部 プロデューサー
業務システムの開発プロジェクトにおいて主に設計担当者として経験を積んだのち、2000年ごろからプロジェクトマネジャーを務める。手掛けたプロジェクトは数十件に上る。現在は、グループ会社の開発標準策定に従事。