スマートグリッド化する前の米国電力系統の監視・制御は、部分的にしか行われておらず、全体を見通せるような状況ではなかった。各部分の監視や制御は、監視制御とデータ収集装置(SCADA:Supervisory Control And Data Acquisition)などで行われてきた。しかし、各電力会社はそれぞれ独自の装置を展開しており、異なった電力会社間でデータや情報を共有することが不可能であった。中には同じ電力会社内でも異なった装置を使用することもあり、同じ電力会社内でもデータや情報を共有できない場合もあった。ちなみに、監視・制御は主に送電網に使用され、配電網に関してはせいぜい変電所の監視・制御に限られることが多かった。その状況を概念的に表したものが、図1である。

図1●電力系統間のそれぞれの部分の情報システムに整合性がないため、データや情報が共有できない状態を概念的に表したもの
図1●電力系統間のそれぞれの部分の情報システムに整合性がないため、データや情報が共有できない状態を概念的に表したもの

スマートグリッドがもたらす監視と制御の観点からの利点

 スマートグリッドの狙いは、電力、IT、通信の各技術を継ぎ目なしに滑らかに結合しようとするものだ。それにより、どの地域のデータや情報も他の地域と容易に統合・解析され、電力系統を地域ごとにも監視できるし、全体として統合的に監視することもできる。それが可能であれば、戦闘機でよく使用される「状況把握と予測」を実現できる。戦闘機の場合、自分の位置と敵機の位置を確認して、敵機が次にどう移動するのかを予測し、それに応じて自機の行動を決定することができる。電力に当てはめると、電力系統内の需要は今どうなのか、1分後、1時間後の需要の変化やそれに対応する供給はどうなのか、といった情報を把握できるということだ。ある部分で電力が不足した場合、余剰がある部分から補充したり、要求・応答の操作で需要を抑えたりするといった処置を取ることができる。その状況を概念的に示したのが図2である。

図2●電力系統間のそれぞれの部分の情報システムに整合性を持たせたため、データや情報が継ぎ目なく共有できている状態を概念的に表したもの
図2●電力系統間のそれぞれの部分の情報システムに整合性を持たせたため、データや情報が継ぎ目なく共有できている状態を概念的に表したもの