米国ホワイトハウスは2012年2月、大統領名で「消費者プライバシー権利章典」の草案を公開した。この権利章典はどのような影響力があるのか。米国のプライバシー関連の最新動向として、消費者プライバシー権利章典について企のクロサカタツヤ氏に解説してもらう(日経コミュニケーション)。

 大統領名で打ち出した消費者プライバシー権利章典(Consumer Privacy Bill of Rights)草案は、プライバシービジネスの構造化を目指して米国が官民一体で打ち出したもの。この規制の枠組みは、影響範囲が海外にまで広がる可能性がある。

 これは、プライバシーデータやビッグデータが大きな経済価値を生み出すとの期待が高まる中で、世界に大きなインパクトを与える一手となるかもしれない。日本の産業界や規制当局は、そのインパクトと影響を分析する必要がある。

「オプトアウトの徹底」を打ち出す

 まずは簡単にプライバシー権利章典の内容を読み解いてみよう。主な目的は、「ネット上のプライバシーデータの扱いについて、個人(消費者)の権利を確立すること」となっている(図1)。具体的に言うと、消費者が自身のプライバシー情報をコントロールできること、事業者によるプライバシー情報取り扱いの透明性が確保されること、データがセキュアに取り扱われることなどが、権利として確立されるべきだとしている。

図1●消費者プライバシー権利章典(A Consumer Privacy Bill of Rights)の骨子
図1●消費者プライバシー権利章典(A Consumer Privacy Bill of Rights)の骨子

 なかでも注目すべきは、事業者によるネット上の追尾・追跡(トラッキング)を消費者が拒否できる「Do Not Track」(以下DNT)という概念を明確化し、権利章典の基本方針とした点だろう。

 DNTについては、2010年頃から米連邦取引委員会(FTC)が、オンラインプライバシーに関する基本方針として掲げてきた。FTCは以前からネットに関係する事業者に対し、この方針に従うよう求めていた。例えば行動ターゲティング広告のためのユーザー行動の追跡を、消費者自身の判断で拒否(オプトアウト)できるサービス設計を強く推奨してきた。また消費者も、プライバシーデータの管理権限を自身が持てるよう、Webブラウザーにそうした機能が搭載されるべきだと主張してきた。

 今回、権利章典の基本方針としてDNTの概念が採択されたことで、オンラインプライバシーに関して米国が「オプトアウトの徹底」を全体方針とすることが明示されたといってよい。これは一見すると消費者保護強化のように受け取れる。だが逆に、「消費者がオプトアウトを宣言しない限り」、プライバシーデータやビッグデータが極めて活発に利用されることが予想される。プライバシー関連ビジネスの産業振興を狙う米国の立場がより鮮明になったといえる。