経営環境が不透明さを増すなか、今ほどイノベーション(革新)を生み出す力が問われている時代はないだろう。本書は、企業が組織のなかで革新的なアイデアを生み、実現性を高めていくための方法論を説く。一部のカリスマリーダーや天才クリエーターに頼るのでなく、普通のビジネスパーソンが創造性を発揮し、チームで取り組む手法や技術を100近いトピックで紹介する。各トピックの論旨は明快で、取り入れやすい方法から着手できるなど実践的だ。

 冒頭のトピックから「イノベーションは明確なビジョンから始まる」と経営者の役割の大きさを説く。ビジョンを伝える手段として、著者は経営者に求めるのが「イノベーション宣言」である。革新が必要な理由や従業員への要求、重視分野などを具体化して、そのために必要な施策を従業員に“誓約”するのだ。

 現場やマネジャーに向けた方法論も充実している。例えば、マンネリ化した会議を打破する技法が興味深い。「包みを回そう法」は、チームが抱える課題と「突飛な解決方法」をメンバーがそれぞれ紙片に書き、この紙片を回してさらに解決方法を加えるといった手順で、斬新かつ実現性の高いアイデアにたどり着く。「6色ハット法」は、「積極的に考える」「否定的に考える」など、メンバーが帽子の色に応じた6種類の役割を演じることで思考の柔軟性を高める。合宿研修やプロジェクトの集中討議などで効果を上げそうだ。

 ソーシャルメディアやクラウドソーシングなど最新ITを活用した方法も詳しい。ITを使うことで、消費者や顧客のコミュニティーを企業の業務プロセスに巻き込むことができ、問題点の発見や解決につながる。

 アイデアの生み出す発想法だけでなく、革新の芽を摘み取らないマネジャーの心構えや、創造的な企業風土を培う方法も述べている。全体を通じて、革新を生む組織作りに取り組んだ欧米企業の成功と失敗事例が豊富に散りばめられている。業種や職種を問わず、組織改革のヒントにあふれた良書だ。

評者:内山 悟志
大手外資系企業などを経て、1994年にアイ・ティ・アールを設立し、代表取締役社長に就任。ユーザー企業にIT戦略の立案などをアドバイスする。
ポール・スローンの結果を出せるリーダーのイノベーション思考法

ポール・スローンの結果を出せるリーダーのイノベーション思考法
ポール・スローン著
若林 暁子訳
北辰堂発行
1680円(税込)