ロンドンのTech Cityには、スタートアップ企業を立ち上げて成功しようと考えている若い力がたくさん集結している。だが、リーンスタートアップといわれるように起業するためのハードルが下がっているとはいえ、自分の力だけで成功して会社を軌道に乗せるのはなかなか難しい。Tech Cityには、そうした若者を支援するインキュベーション活動も活発に行われている。今回は、そうしたインキュベーション施設を紹介しよう。

オシャレな施設で起業家精神を刺激する「The Trampery」

 「The Trampery」(写真1は、ロンドンのShoreditch地区にあるインキュベーション施設である。2009年に設立され、2011年10月にはアンドリュー王子が、2011年11月にはTech City1周年をお祝いするためにキャメロン首相も訪問しているなど、Tech Cityを代表するインキュベーシン施設だ。

 The Tramperyの創設者であるDirectorのCharles Armstrong氏(写真2)が、ロンドンのイーストエンド地区に施設を作った理由を語ってくれた。「私がShoreditch地区に来た2003年には、ソフトウエア関連企業は周辺に10社くらいしかなかった。だが、ファッションデザイナーやビジュアルアーティストがいて、ギャラリーなどがたくさんあるなど、革新を作るための刺激を受けるには向いた地区だった。その後、同じ理由でソフト会社が次々と集まるようになったが、徐々にオフィススペースを見つけるのが大変になってきた。そうした革新的な優秀な会社のためのワークスペースを提供するようになった」という。

写真1●Shoreditch地区の中心にある「The Trampery」
写真1●Shoreditch地区の中心にある「The Trampery」
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写真2●The Tramperyの創設者であるCharles Armstrong氏
写真2●The Tramperyの創設者であるCharles Armstrong氏
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落ち着いた内装で全員の顔の見える環境を用意

 The Tramperyの現在の施設は2代目となる。設立時に使っていた最初の施設は2010年末には最初の建物は満杯になってしまった。そこで、2011年5月に今の建物に移転。現在は、16のスタートアップ企業で55人が集まっている。

 Armstrong氏によると、新しい物件を探す際に意識的に50人程度というのを想定して建物を選んだという。「人間がほかの人と関係を持てるのが、だいたい50人くらい」(Armstrong氏)だ。才能をもった技術家が集まって、早くつながるほど、早く成功につながると考えた。そのために、全員が顔見知りになれる程度の規模を設定したのだ。

 現在の建物は2階建て。時間が経過するにつれて、1階と2階で少しずつ雰囲気が変わることが考えられるが、できるだけ確実に混じり合える環境を用意することが大事。そのためにキッチンを建物を入った一番手前に設置(写真3)。「みんなが集まるキッチンが建物全体の交差点になる」(Armstrong氏)という考えだ(写真4)。

写真3●建物の入口すぐのところにあるキッチン
写真3●建物の入口すぐのところにあるキッチン
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写真4●入居している起業家同士がキッチンで交流する
写真4●入居している起業家同士がキッチンで交流する
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 インテリアにもこだわった。「この地域のデザインの特徴を反映するような新しい環境を作り上げようと思った。アンティークな古い家具と、現代美術がミックスされてあるのがイーストロンドンの精神を感じられるようにしたかった」(Armstrong氏)と語る。もちろん、お客を呼ぶことも、想定される。そのために、ソファを置いた応接室を作る、床にペルシャ絨毯を敷く、オシャレな机と椅子を用意する、といった工夫をしている(写真5写真6)。

写真5●ソファを置いた応接スペース
写真5●ソファを置いた応接スペース
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写真6●起業家が入居する作業スペース<br>床にはペルシャ絨毯が敷いてある。
写真6●起業家が入居する作業スペース
床にはペルシャ絨毯が敷いてある。
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 The Tramperyの施設は、利用するデスク単位で課金される。料金は、1デスクで1月あたり330ポンド(約4万3000円)。この料金で、インターネット接続やプリンタ、キッチン設備やコーヒーメーカーなどが利用できる。