ITを使ってビジネスをどのように変えるのか。収益を生む新たなビジネスモデルをどのようにして創り出せばよいのか。経営者は情報システムに戦略的意味を求める。そうした戦略性のあるシステムを三つのパターンに分け、経営者の問題意識に迫る。

 経営者が強くコミットする案件は現在の収益、企業の今後を左右する戦略的課題、そして経営上のリスクである。間接業務向けのシステムならトラブルのリスクでも無い限り、専門家に任せておけばよいと考える。だが、企業の今後を左右するとなると話は別。即“社長マター”である。

 そうした戦略性のあるシステムには三つのパターンがある。まず、新たな売り上げやビジネスを創るシステムである。二つめが顧客満足度向上と業務効率化を両立させる業務リファイン型のシステム。三つめは、構造改革を支援するシステムである。では、経営者にその真髄を語ってもらおう。

目指すは儲かるシステム

 「基幹システムは一切更新するつもりはありません。刷新しても儲かりませんからね。それに対して、最も力を入れているのが、仕事の中身を大きく変えることのできるKOMTRAXです」。コマツの野路國夫社長へのインタビューの際、印象深かった言葉だ。

 野路社長はかつてCIO(最高情報責任者)として基幹システム刷新プロジェクトの指揮をとった。しかし、「基幹システムには製造業としての競争力の源泉はありません。我々に合ったERP(統合基幹業務システム)を導入すればよいだけ」と言い切る。

[画像のクリックで拡大表示]

 一方、野路社長の経営戦略の根幹とも言えるのがKOMTRAXだ。建設機械にITを載せることで、使用場所や使用状況、使用時間などを一元的に把握し、質の高いサポートや商談につなげる。このKOMTRAXについて野路社長は、「ビジネスモデルを変革していこうというものです。そして、実際に変革を実現できました」と説明する。当初は盗難防止用に開発したが、運用すると様々なアイデアが生まれ、今や完全に“社長マター”となった。

新たなビジネスモデルを創る

 KOMTRAXによるビジネスは例えばこうだ。燃料使用量が分かるので、燃料を相当使っている顧客と、あまり使ってない顧客の差異を分析すると運転方法の違いが分かる。使いすぎている顧客に教えると2~3割も燃費が下がる。その結果、顧客に喜ばれてコマツの評判も上がるわけだ。

 さらに中国でのビジネスでも武器になる。中国の顧客は主に個人事業主だ。与信管理ができないので、普通なら怖くて割賦で売れない。しかし売った建機の稼働状況の確認が可能なことから、顧客の仕事の有無を把握でき適切な対応が取れるため、競合企業が売れないような顧客にも販売できる。

 KOMTRAXではないが、無人ダンプトラック運行システムもITを活用した新たなビジネス創造である。採掘現場で使う無人ダンプの走行などのオペレーションを、コマツが指導して料金をもらう。「システムにすると売り上げがダンプ単体の1.5倍から1.7倍」と野路社長が指摘するように、ITが売り上げ拡大に貢献した形だ。

 コマツはこうしたシステムを、ほぼ自前で構築した。野路社長はその要素技術も把握している。「現場に『なぜだ、なぜだ』と聞けば教えてくれますよ。細かいところまで聞く力がなかったら、技術マネジメントはできません。聞くことで、こんな組織にしようとか、M&Aや提携を進めようとかいったことがひらめくのです」。