この2月、米国サンフランシスコ市で開かれたオープンソース系イベント2つに参加してきました。いずれもThe Linux Foundationが主催のイベントで、組み込みAndroid分野の「Android Builders Summit(ABS)」と、組み込みLinux分野で世界最大の「Embedded Linux Conference(ELC)」です。

写真1●ABSでのライトニングトークの様子
写真1●ABSでのライトニングトークの様子
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 ABSでは、ビジネス的見地の技術から純粋な技術まで幅広く最新情報の講演が開かれました(写真1)。例えば、ビジネス的見地としては、中国最大のキャリアであるチャイナモバイルの講演「Bump In Host on Android - A Host-Based IPv4 to IPv6 Translation」が挙げられます。端末内でIPv4からIPv6に変換する技術に関するもので、IPv6化の問題、すなわち「上位互換ではないため、アプリ側の対応が必要になること」に対する答えの1つとなります。

 純粋な技術的見地としては、台湾のAndroid系OSSコミュニティーである0xlabのメンバーの講演「Improve Android System Component Performance」が要注目でした。Androidのパフォーマンスチューニングに関する技術です。Androidのフレームワークからさらに下位のLinux部分にわたり、パフォーマンスのボトルネックとその解消法を紹介しています。

 ELCで注目すべきは、セッションの内容よりも、参加企業の顔ぶれでしょう。韓国Samsung社が、ELCの“ドン”といえる米Sony Network Entertainment社と肩を並べる3セッションを確保し、その存在感はトップクラス。台湾HTC社やSamsung社は一部セッションのスポンサーにもなっており、会場ではロゴマークが目立っていました。

 こう見ると、アジア系の新興国の存在感は、すでに一線級であり、参加者も中国や韓国、台湾、インドから来ている人が、どんどんと増えています。その場にいると、英語と中国語系の発音の言語が聞こえてきて、「第2公用語は、中国語か」と錯覚するほどです。

 ちなみに、筆者が参加したのは、「Treasure Hunting Robot」を、本イベントで展示したかったから。この機器は、介護用ペットロボット作成プロジェクト「DENSUKE」のテスト機です。米Microsoft社のゲーム用デバイスである「Kinect for Xbox 360」を使い、ロボットをAR(拡張現実)技術で操作。仮想空間に“宝物”を配置し、実際のロボットを脳波センサーで動かしてキャッチします。個人的には、モノづくりの新スタイルである「DIwO(Do It WithOthers:みんなで一緒に作る)」を体現するために取り掛かったものです。

写真2●デモに挑戦してくれた中国からの留学生
写真2●デモに挑戦してくれた中国からの留学生
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 ただし、デモ枠を事前に申請していたわけではなく完全に“突撃状態”でした。イベントでは米Texus Instruments(TI)社がデモブースを持っており、その場で「この機器はTI社製のPandaBoardを利用しているので展示してよいか」と交渉したところ“ウェルカム”と。OSS系イベントならではですね。

 さらにこの後、知り合いから紹介してもらった米コロラド大学の教授に講義「ECEN 5653/4653 - Spring 2012」の一枠をもらい、デモをしてきました(写真2)。同大学は毎年スキー客が押し寄せる山奥にありますが、この授業は4分の1がアジアからの留学生などで占められていました。こんなところまでアジア系新興国が進出しているのです。


レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するためのエコシステムを台湾の政府系研究機関で開発中。