昨年末、Androidスマートフォンで動作する日本語入力システム「Simeji」を中国バイドゥ社が買収したことは、Android開発者かいわいを騒がせました(関連記事)。今回は、そのSimejiの開発者である、Adamrockerこと足立さんと、矢野りんさんの2人にバイドゥ社での活動を伺いました(写真1)。

写真1●Simejiチームのメンバー
写真1●Simejiチームのメンバー
左から2番目がAdamrockerこと足立さん、3番目が矢野りんさん

 まずは、入社してからの感想を足立さんに尋ねると「バイドゥ社員の考え方やライフスタイルは、米国のそれに近く、とてもアグレッシブでスピード感がある」とのこと。Simejiの機能拡張の会議のとき、最初から全員が全力で議論をスタートして様々なアイデアが飛び出してくる上、その議論を聞きつけた人たちも参加し、最後には数十人に膨れ上がることもあったそうです。人の話を真摯に受け止めて学び、そこからさらに自分の意見をぶつけていくという、アメリカンなスタイルの議論展開といえます。

 議論は基本的に「英語」ですが、足立さんは「ネイティブじゃないところが良い」と言います。例えば、ネイティブ言語で議論が白熱するとつい口が滑ってしまったりしますが、「簡単な単語がメインで、1度考えてから話す」となるためそのようなことがなく、精神的にとても良いそうです。

 中国企業ならではの宴会を紹介しましょう。ドラマでよく見かける中国式の“エンドレス乾杯”は、すでに「おっさんの文化」であり、若者は自分のペースで飲むのが一般化しているようです。胃腸薬やらいろいろと準備をして挑んだそうですが、肩すかしを食らったとのこと。上座などの概念もなく、社長が給仕席に座って給仕係もしたそうです。

 2人とも言語の壁など何のそので活躍しています。筆者は、このような文化の交わりこそが21世紀型のライフスタイルの完成形の1つと考えています。そのキーポイントは、「チームとコミュニティー」です。

 前回、21世紀型のライフスタイルの話を紹介しました。このSimejiチームの話を織り交ぜると“最低限の生活を保障するための収入源+プロアマとしてのチームベースのプロダクト作成”という方向性になります。いわば、音楽シーンにおけるインディーズバンドみたいなもので、それぞれの得意な分野の人間が集まって1つのプロダクトを作り、そこにファンが集まるスタイルです。

 「得意な分野の人間が集まる」ことの先駆けの一例が、前々回紹介したシリコンバレーにあるカフェでしょう。そこで意気投合した仲間達がチームを作り、「1つのプロダクトを作る」わけです。ファンが集まる場はコミュニティーとなります。このコミュニティーがマーケティングやブランディングになり、口コミなどで普及の足掛かりとなるわけです。

 普及があるしきい値を超えたプロダクトは、企業に育てられ、世間に届けられます。すなわち、企業はインキュベーションの機能を持つ組織へと変化する、というシナリオです。このとき、趣味の延長やニッチなプロダクトの例は、前回の“発明家”寺崎さんの事例となるでしょう。マス向けプロダクトは、Simejiのような事例となります。

 企業で育てる前にファンが付いていることが必要であり、ファンを裏切る行為は致命的になります。そのため、「プロダクトの魂を企業チームの人達に移植する」こともが重要になります。

 文化を取り入れ、融合しつつあるSimejiチームの活動は、こうしたシナリオを体現されているようであり、最初の事例になると期待しています。

レポーター:今村のりつな
SIProp.org 代表/OESF CTO
PC系から新時代に移行するためのエコシステムを台湾の政府系研究機関で開発中。