12月ということで、中国大陸はシベリアから来る寒気に身を凍えさせながらも、街中は歳末商戦の熱気が漂っている。ここ数年で目につくのは、クリスマスの風習が中国にも受け入れられてきたことだ。

 色とりどりの電飾が華やかなクリスマスツリーや、オーナメントが店舗のウインドーに飾られる。レストランでは12月に入った早々からクリスマスディナーの予約を始めている。早いところになると11月中旬からクリスマスツリーを飾っているほど。この時期、繁華街の夜景は一気に洋風な雰囲気に包まれるようになった。

キリスト教色は薄い

 クリスマス消費の主な担い手は、やはり都市部の若者だ。上海の14~30歳の70%がクリスマスイブに外出しているという調査もある。中国の伝統的な休日は、どれも家族の団らんを最大の目的にしている。旧正月しかり、清明節しかり、中秋節しかり。若者はそれを息苦しく思い、クリスマスのような伝統に縛られない洋物のイベントを好むようになっているのかもれしない。

 ただ、中国で育ちつつある「クリスマス文化」は、キリスト教文化圏のそれとは異なる。ご存じの通り、キリスト教文化圏のクリスマスの一般的な過ごし方は教会でのミサと家族での晩さんだが、中国ではプレゼントとパーティーが中心。日本経由で導入されたものといわれても、あながち間違いとはいえない状況にある。

 もっといえば、欧米の人が首をかしげる風習も広がりつつある。ほとんど雪が降らない上海で「ホワイトクリスマス」が喧伝され、「クリスマスは恋人同士で」という日本的なスタイルが盛り上がりつつあるのだ。聖歌コンサートが開かれ、雑誌はクリスマスプレゼントやギフトの特集を組み、旅行業界はクリスマス向けのホテル宿泊プランなどを作るようになっている。

 この時期に特に目につくのは飲食店である。フレンチやイタリアンといった少々おしゃれなレストランは、ここぞとばかりに「クリスマスディナーセット」と称して通常の倍以上の値段で提供する。その値段は中国で縁起のよい数字である下二桁88元(888元、1288元など)が並ぶ。

 ちなみに上海の最低賃金は1280元。日本より格差が激しい社会の中国とはいえ、へたしたら初任給1カ月分がぽんと吹き飛ぶくらいの消費である。それでもそういった店はクリスマス当日には満席となる。まず予約なしには入れない。

 思い起こせば十数年前、バブルの余韻を引きずっていた若かりし筆者には甘酸っぱい思い出がある。当時、留学先の大学で知り合った同世代の中国人男子学生と親しくしていた。典型的な日本人感覚で「クリスマスは2人で一緒に夕ご飯を食べて…」などと妄想していたのだが、「中国人はクリスマスなんて関係ないよ」の一言で思いっきり肩すかしを食わされたのだった。

 それは日本人男性がヨーロッパの女性に4月8日の灌仏会(釈迦の誕生日)に豪華な夕ご飯に連れ回されるようなものだったのだろう。そう置き換えて考えれば当時の彼の姿勢もむべなるかなである。そんな中国で、クリスマスは恋人と過ごすという風習が盛り上がるとは。時代が変われば変わるものだ。

盛り上がるクリスマス商戦

 さて、クリスマスは若者たちに心躍るイベントを提供するだけではない。そのおかげで年末から旧正月(1月中旬~2月中旬で変動する)にかけての消費熱が、以前よりも少々前倒しになっていることがうかがえる。

 中国の商品小売額のピークは年に3回ほどある。まず5月の労働節時期、次に9月の中秋節から10月の国慶節にかけて、最後が12月から1月、旧正月前後の歳末である。

 3番目の年末商戦の特徴は、期間が2カ月強と長いうえ、購入する品とそれを贈る対象が多岐にわたることだ。中秋節はメーンの贈答品が月餅であるのに対し、クリスマスから旧正月にかけては制約が少ない。

 贈る対象は自分自身、恋人、夫婦、親兄弟、親族と広がる。しかも可処分所得が高く消費力が強い20~40代が主力となって消費額も大きくなる。小売店もおのずと力が入る。

 クリスマスは、同じくここ数年の中国人の消費力増大に伴って盛り上がってきたバレンタインデー(男性は女性に花を、女性は男性にチョコレートを贈る。これもまさに日本スタイルである)や七夕(「中国のバレンタインデー」といわれ、相互にプレゼントを贈る)と比較しても規模が大きい。さらにそこから続く旧正月商戦への前哨戦でもある。去年(2010年)12月の一般商品小売総額は、前月の11月と比較して10.5%増の1兆3607.6億元だった。今年(2011年)12月も前月を大きく上回る数値が出ることだろう。

 余談だが、クリスマスから1カ月と半分ほどたった2月のバレンタインデー前後には、「意外懐妊熱線(予期せぬ妊娠ホットライン)」に若年未婚女子の相談電話が激増するとのこと。若者中心のイベントはよいとして、拡大する消費にもれなくこんなおまけがつくのは、なんといってよいやら。


佐々木 清美(ささき きよみ)
 1969年生まれ。北海道大学経済研究科修士課程修了。卒業論文のテーマは「近代上海の下層労働力」。「文字化されない『老百姓(一般市民)』の生活ウォッチ」を続ける。
 日本総合研究所の中国法人である日綜(上海)投資コンサルティング有限公司などを経て、2012年2月から拓知管理諮詢(上海)有限公司のコンサルタント。