◆今回の注目NEWS◆

国民に番号「マイナンバー」法案閣議決定 国会に提出
(朝日新聞、2月14日)


◆このNEWSのツボ◆

 2月14日に、いよいよマイナンバー法案が国会に提出された。考えてみれば、この国民に付与する「ID」の話は、古くはグリーンカード制度(少額貯蓄利用者カード)から始まって、住民基本台帳コード、国民IDとさまざまな議論が行われ、今回「税・社会保障制度の一体改革」という“錦の御旗”の下に法案化が行われた。

 筆者はこうした番号の付与には賛成である。ここ数年を振り返るだけでも「消えた年金5000万件」「死亡した親族の老齢年金を生きていることにして遺族が受け取っていた」「東日本大震災で保証金問題などをめぐって住民情報の紛失が大きな問題になった」など、行政の対象であるはずの個人・法人に関して、その特定と把握が不十分なことが大きな問題として顕在化してきた。これらの問題によって発生した行政コストのロスはおそらく1000億円をはるかに上回るだろう。

 年金記録の統合だけでも数百億円の予算を費やして、いまだにどのくらい統合が進んだのかすらはっきりしないという状況が何よりの証左であろう。“トォ・ゴォ・サン・ピン”とか“クロヨン”といった税捕捉の漏れで失われている税収が膨大であろうことも言うまでもない。

 こうした状況の改善・改革には、マイナンバーの導入は大きな効果があるはずである。ただ、法案に盛り込まれ、今後進められるであろう具体的な措置については、若干の懸念があるのも事実である。

 何が懸念かといえば、次のような点である。

●初めから完全なものを作るのは難しい。現在、個人や法人が完全に把握できているわけではないのだから、最初に完璧なものを作ると言い過ぎると必要なコストも大きくなるし、膨大なコストをかけたところで完璧なものが出来るわけでもない。

●セキュリティ、プライバシーに配慮するのは当然だが、必要以上に完璧を追求すると膨大なコストがかかる。たとえば自分の記録を照会するために「マイ・ポータル」を作成・提供するとされているが、インターネット上にポータルを作るだけでセキュリティリスクは大きく増大する。税と社会保障だけでマイナンバーを利用している段階から、本当にマイ・ポータルが必要なのだろうか。

●個人番号情報保護委員会は万能ではない。福島原発事故の問題以降、政府の「委員会」の権限や機能と責任の問題が議論されているが、第三者委員会を設けて、「プライバシー問題については第三者委員会を設けたから対応できるはず」と言っても、実際のプライバシーの順守状況を監視・把握するための十分な執行機能が、この委員会に備えられるかどうかは不明である。こうした点が十分担保されない限り、プライバシーにかかる問題は個人番号情報保護委員会を設けるから大丈夫というものではないという点は十分認識する必要がある。

 政策の大方針は理解でき、肯定できても、実行を誤ると住基ネットのように膨大なコストに対して、ほとんど利用されないシステムが出来上がりかねない。法案の“方向”には賛成であるが、この仕組みが十分に機能できるようにするためには「いかに実行するか」が、より重要なのである。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト 取締役 事業提携担当、
スタンフォード日本センター理事
安延申
通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト取締役 事業提携担当、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。