今や中国人にとって、外国製の商品は手の届くものになってきた。有害物質入りの食品や爆発する家電製品などがあったことから、中国人には中国産の商品に対する不信感が根強い。このため相応の収入を持つ層は、割高であっても先進国からの輸入品を選択する。

 こうした背景を追い風にしつつ、日本の商品を中国人にアピールするにはどうすればよいのだろうか。「赤や金を多用した派手な包装にした方がよい」「本体内容物の容量を大幅に上回る包装にした方がよい」など、筆者は様々な方策が語られているのをそこかしこで聞いた。

 しかし最近になって、これまで聞いたものとは全く異なる手法をある輸入商品卸売会社の責任者の方から伺った。前回の当コラムで愚痴った日本のカタカナ外来語とも関連する、興味深い手法であった。

 その「全く異なる手法」は2つある。1つは「日本国内と同じパッケージを使用する」こと。もう1つは」カタカナ外来語を控え、漢字を積極的に使う」というものだ。

「中国向け仕様」に中国人は不信の目を向ける

 まず、日本国内用パッケージをそのまま使用することから見てみよう。実は先進国からの輸入品には、中国で人気が出ないものと出るものがあるという。人気が集まりにくいのは「日本で生産した輸出国仕様の商品」。一方、人気があるのは「日本で生産した日本国内販売用の商品」だ。

 こうした中国の傾向を象徴するのは、ある粉ミルク商品についてのエピソードである。この粉ミルクのメーカーは中国市場に商品を輸出するに当たり、日本向けの商品とは別の仕様を策定した。

 具体的には、中国の関連法律法規に合致させ、栄養分も中国の食品栄養基準に合わせた。さらに商品パッケージも中国向けのアレンジを実施。この仕様に沿った粉ミルクを日本で生産し、輸出している。

 ところが、こうした中国人に対する配慮が当の中国人に伝わっていない。むしろ彼らの目には「自国や欧米には優良品を販売するのに、他国にはそれよりも低品質の商品を販売している」と映っている。

 「ならば我々は日本の、日本人向けの『厳格な食品検査に合格している』商品を買おう」と中国人は考える。そこで商品を購入する際には、日本の商品を販売する中国国内のネットショップなどを利用するありさまだ。

 つまり「中国向け」とうたった製品は、中国の「ザル」のような管理監督制度に引っかからない程度の品質でしかないと見なされてしまうわけだ。この粉ミルクと同じような話を、筆者はほかの分野でも耳にしている。

 それではどうすればよいのだろうか。日本で販売しているパッケージのまま、中国で規定されているラベルを貼り付けて販売すればよい。下手に親切心を発揮して中国向けに中国語表記パッケージに変更するよりも、よほどよく売れるのだそうだ。

パッケージにカタカナ外来語を使用するのは不利

 続いて、もう1つの手法である漢字を積極的に使用することについてである。日本の商品は安全・安心など高い評価が定着しているものの、現地の商品より高い買い物であることは否めない。中国人の顧客に手に取ってもらうためのもう一押しの工夫が欠かせない。

 顧客に手に取ってもらうためのポイントになるのが、商品パッケージの表記に漢字がたくさん使われているかどうかである。先進国からの輸入品など高級商品を買う層は、さすがに相応に高学歴で、外国語が読める人たちも多い。とはいえ、彼らもぱっと見て理解しやすいのは漢字だ。

 商品の中身や効用が何なのか、表記を見てすぐにある程度理解できるに越したことはない。その点、日本はもともと漢字を使う国だ。中国人にとって、日本の商品は他国の商品より読める文字が多い。その分、他国の輸入品よりも手に取ってもらいやすいという有利さを備えているわけだ。

 ところが、もったいないことに日本では漢字よりもカタカナ外来語などを好んで使用する傾向がある。キャッチフレーズにしやすい軽妙な印象があることや、デザイン面でも堅苦しい印象に陥りがちな漢字の字体よりも好ましいという判断が働くのだろう。

 「砂糖を利用していない」という表示を例に取ると、「シュガーフリー」や「sugar free」などと記載した方が商品イメージに沿うと日本企業は考えがちだ。しかしこうした場合にあえて「砂糖不使用*」と表現してみるのはいかがだろうか。「砂糖」「不使用」とも、中国人は日本語と同じ意味で理解できる。

 美容やダイエットは洋の東西を問わず女性が関心を持つもの。特に上海などでは、菓子類については日本人より甘くないものを好んでおり、砂糖不使用に反応しやすいはずだ。日本そのままの「外国語パッケージ」が中国人にもアピールするわけだ。

 日本経済の行き詰まりと中国の旺盛な消費市場の様子を見て、中国市場に売り込みをかける日本企業は増える一方だ。それら参入組がこうした日本語の利点を生かし、カタカナ外来語を徐々に減らしてくれれば、カタカナ外来語に対する筆者の苦労も軽減され、万々歳なのだが。

*正式な中国語は「不添加蔗糖」だが、「砂糖不使用」でも言わんとすることは理解できるとして例示した

佐々木 清美(ささき きよみ)
 1969年生まれ。北海道大学経済研究科修士課程修了。卒業論文のテーマは「近代上海の下層労働力」。「文字化されない『老百姓(一般市民)』の生活ウォッチ」を続ける。
 日本総合研究所の中国法人である日綜(上海)投資コンサルティング有限公司などを経て、2012年2月から拓知管理諮詢(上海)有限公司のコンサルタント。