所得水準が向上するにつれて、生活に余裕のでてきた層から、着実にレクリエーション・余暇活動への支出が増えてきている。

 上海市の新興住宅街といえる閔行区のアンケートによると、「休みの時に何をしているか」という問いに対し、「学習」や「家事育児」「会社接待」などを抑えて「レクリエーション」が全回答の51.8%を占めた。

 一方、2008年に上海市が実施した抽出調査によると、同市住民の1人当たり平均可処分所得は2万6675元(約36万5000円、以下同)、消費支出平均は1万9398元(25万9000円)だった。このうち「文化娯楽サービス」や「文化娯楽用品」に対する支出はそれぞれ874元(1万1600円)、835元(1万1100円)。合計すると消費支出の8.8%を趣味が占めている勘定だ。

 同様の数字を高所得者層に絞ると、可処分所得5万3733元(71万7000円)に対して消費支出平均が3万5273(47万1000円)、文化娯楽サービス・文化娯楽用品支出はそれぞれ2029元(2万7000円)、1598元(2万1000円)で消費支出の10.3%を趣味が占めている。

高級車でバス釣りにやってくる

 今後もレクリエーション・余暇活動への支出は増えるだろう。その例証の1つとして、2010年5月の中旬、上海の隣にある昆山市にて開催された「バス釣りトーナメント」を紹介しよう。

 当日は上海の釣具店の中国人顧客を中心に、上海および蘇州市など近郊在住の日本人を合わせた総勢60人近い釣り師が集まった。朝7時前から続々と参加者が集まり、道具・ルアー(疑似餌)コレクションの品評会や、最近の釣果報告でにぎわった。

 この大会は日本から愛好者垂涎のツールを提供する会社がスポンサーについていた。さらに日本のバスプロ2名を招いたこともあって、開始前からいやが上にも盛り上がった。

 このバス釣りをはじめとするルアーフィッシング(中国語では「路亜」と書く)は中国に入ってからまだ10年に満たない。そのため愛好者はまだごくごく限られている。

 都市部においては釣り堀以外に楽しめる場所が無いうえ、「魚釣りは食べるための行為」という意識もまだ強い。「キャッチアンドリリース」のゲームフィッシングへの理解の浸透には、なかなか時間がかかりそうだ。

 出費面でも、初心者がロッドやリール、消耗品の針、釣り糸、ルアーなどを一通りそろえるだけで相当かかる。さらに、街中の公園にある釣り堀に行くにも1回100元(約1400円)以上もかかる。これが深みにはまっていくと、道具にも凝り、釣り場も何時間もかかる釣り場に遠征…と、決して安い趣味ではない。

 当日大会に参加しに来た中国人グループは、やはりそれなりの所得層なのであろう。上海から高速道路で1時間半かかる会場まで高級自家用車で乗りつけてきていたし、所持していたツールについても私の世話役の一人は「結構良いものを持っているよ」と評していた。だが着実に愛好者は年々増えており、昨年(2009年)は釣具メーカー主催で全国ルアーフィッシングトーナメントが開催された。

未発掘な金脈が埋もれている

 レクリエーション、余暇活動の多様化は、90年代に普及・浸透したカラオケ、ボーリング、スケートボード、カートレース、ウォールクライミングなどのように、文化の輸入と並行している。これらの市場の成長にはある程度の時間がかかるだろうし、家電や食品のように大規模な市場を期待することはできない。

 とはいえ、一定層が根強く支えてくれる市場でもある。ゴルフはその最たる成功例といえよう。現在中国のゴルフ人口は300万人ともいわれ、全国には400カ所以上のゴルフ場がある。

 うち上海市内だけで28カ所、お隣の浙江省・江蘇省にもそれぞれ13、18カ所あり、週末のラウンドは何カ月も前に予約しないと取れないそうだ。街ではデパートのみならず大型スーパーやオフィスビル内にまでゴルフショップが出店している。

 プロのみならずアマチュアトーナメントも開催されるようになった。最近では、「娯楽」を超えて国家体育局の管轄する「スポーツ」の1つとし、より広く普及させるべきとの意見まで出るようになってきている。

 中国人のレクリエーション・余暇市場は、今後の成長次第では、まだ掘り起こされていない金脈につながる可能性を秘めている。何がどう盛り上がっていくのか予測するのは難しいが、レジャー市場という湖から大物を釣り上げられる日がいずれ来るだろう。

 日本企業はここでルアーフィッシングよろしく、ソナーで魚群をつぶさに追い、細工を凝らしたルアーを仕掛けて大きな当たりを狙ってみるのはどうだろうか。


佐々木 清美(ささき きよみ)
 1969年生まれ。北海道大学経済研究科修士課程修了。卒業論文のテーマは「近代上海の下層労働力」。「文字化されない『老百姓(一般市民)』の生活ウォッチ」を続ける。
 日本総合研究所の中国法人である日綜(上海)投資コンサルティング有限公司などを経て、2012年2月から拓知管理諮詢(上海)有限公司のコンサルタント。