900MHz帯に続いて総務省が割り当て準備を進めている700MHz帯のLTE用途への開設指針についてイー・アクセスは2012年3月30日、総務省に提出した意見書を公表した。2月29日に始まった「700MHz帯を使用する特定基地局の開設に関する指針案の意見募集」に対して提出したものである。意見提出者が総務省による募集結果の発表前に、内容を公表するのは異例のことと言える。イー・アクセス執行役員企画部長の大橋功氏に狙いを聞いた。(聞き手は日経ニューメディア記者、滝沢泰盛)

このタイミングで、指針案に対する意見書を公表した狙いは何か。

大橋 総務省の指針案では、700MHz帯の割り当て枠は3社分ということになり、先に900MHz帯を獲得したソフトバンクモバイルは申請しないと公言している。こうした状況から、常識的には我々とNTTドコモ、KDDIに順当に割り当てられると予想は可能だ。しかし現時点で、我が社に確実に周波数を獲得できるという保証はない。

 そこで、意見書を公表することによって、もっと業界全体や一般ユーザーに、700MHz帯の割り当てプロセスに関心を持ってもらいたいと考えた。我々が求めているのは既存事業者に対する周波数割り当てのイコールフッティングである。全国エリアで競争できる事業者の数が増えれば、周波数再編の目的である高速なモバイルブロードバンドの普及促進がより早まる。こうした認識をもっと広めたい。

公表した意見書の内容を見ると、900MHz帯の審査でイー・アクセスに不利に働いた「割り当て周波数幅に対する契約数」の評点の配分見直しも要求している。しかし、700MHz帯の審査も900MHz帯の時と同じ比較審査基準を用いる前提である以上、現実的には、配分をこれから見直すのは難しいのではないか。

大橋 その点は我々も重々承知している。それでも主張に盛り込んだのは、700MHz帯の獲得にかける真剣度が他社とは違う、ということを示したかったからだ。

 NTTドコモやKDDIは、すでに多くの周波数が割り当てられており、これから終了していくシステムの周波数帯を、新たにLTEに割り当てていくなど、現状のままでも様々な周波数活用の選択肢を持っている。これに対して参入してまだ5年、1.7GHz帯で30MHz幅しか持っていない我々にとって、新規に周波数を獲得することの意味は大きく違う。プラチナバンドを割り当てられていない我が社が、事業規模で先行する3社と対抗していく上で、700MHz帯を獲得することは非常に重要なテーマだ。

スマートフォンの存在は審査に影響を及ぼすか。

大橋 個人的には、前回の900MHz帯の審査では、本来の目的であるはずの「より多くの事業者間の競争を促進する」という観点より、「拡大するトラフィックに対してオフロード用の周波数を割り当てる手当てが必要」という要素が優先された感があると考えている。その意味では、この1、2年のスマートフォンの急速な普及は、業界全体の競争を活性化させた半面、割り当て審査に限ってみれば、USBモデムや無線LANルーター中心の我々にとって不利に働いたと言えるだろう。

 ただし、900MHz帯の審査は過ぎた話であり、今我々にとって最も重要なのは、これから審査される700MHz帯を獲得し、LTE市場を素早く立ち上げることだ。

 意見書には、周波数の移行費用負担とは別に発生するテレビ用のブースター(増幅器)に対する受信障害対策についても、総務省主導で対処の指針を示して欲しいと記させてもらった。これも700MHz帯でLTEサービスを早く立ち上げるために、業界全体で協力しながら対処しなくてはならない問題だ。

 ブースター受信障害に対策する費用は、新たに周波数を割り当てられた事業者が負担することになるが、実際にどれだけの規模の影響が及ぶのかについては、まったく予想がつかない状況だ。周波数の割り当てを受けていない現状では、心配しても仕方がない話ではあるが、この問題が思わぬ足かせになり、そのためにLTEのサービス開始が遅れるようなことは、業界全体から見ても避けるべきだろう。

開設指針の決定はまだ先になるが、申請に向けた準備は進んでいるのか。

大橋 審査基準が900MHz帯と同じ枠組みであるため、特に大きく変更するつもりはない。だが、まったく同じでは評点の上乗せを期待できない。当社としては、比較審査の基準の一つである「MVNO(仮想移動通信事業者)市場の活性化への取り組み」の点でプラスアルファの努力を示したいと考えている。