PM(プロジェクトマネジャー)はとかくメンバーから報連相されるのを当然だと思いがちだ。しかし忙しいさなかに報連相をし続けるのは、メンバーにとって、それなりのエネルギーが必要だ。特に書類で報告する場合、手間も労力もかかる。

 書類による報告をしたときにメンバーが気になるのは、「報告した内容をPMは読んでくれたのかどうか」「読んだ結果、PMはどう思ったか」だ。このとき、PMから的確な指示やアドバイスといったレスポンスが全くなく、報告がただブラックホールに消えていくような状況だと、あっという間に送り手のエネルギーは尽きて、正確な内容の報連相は途絶えてしまう。

 「コミュニケーションはキャッチボール」という言葉がある。投げられたボールをつかんで投げ返す。ただそれだけのことなのだが、これができるかどうかで報連相がうまく機能するかどうかが決まるのである。

読んでいることを伝えなかったDさんのケース

 あるSIベンダーが、最大30人のメンバーからなるシステム開発プロジェクトを受注することになった。その会社にとっては大きいプロジェクトだったので課長のDさんがPMを務めることになり、組織を挙げて取り組むことになった。

 現場で百戦錬磨のDさんはプロジェクト管理能力も高い。報連相の手段としてグループウエアを用い、週1回の報告(週報)とともに日々の報連相もそれを使うルールにした。さらに、そのグループウエアでの報告のし忘れが起こらないようにフォローしていった。

 リーダーはルールに従って、グループウエアできちんと報連相を行った。次第にリーダーからの報告も深刻なものが減り、「順調」「問題なし」といった簡素な内容の報告が多くなってきた。プロジェクトはうまくいっているかに見えた。

 しかし、プロジェクトの後半で問題が発生した。協力会社であるX社に開発を依頼していたプログラムに対して受け入れテストを実施したところ、品質が低いことが判明したのだ。DさんはX社に品質改善を依頼するとともに、受け入れテスト要員を増強した。最後はDさんの会社でバグ修正作業を引き取って納期には間に合わせたが、大幅なコスト増になってしまった。

 X社への委託部分は、リーダーのW君が担当していた。Dさんは「なんでもっと早く気付かなかったんだ!」とW君を怒った。怒られたW君、実は早いうちからX社の体制に問題があると気付いていた。そのためW君は事態の収拾に当たってはいたものの、その問題があったことをDさんにきちんと報告していなかったのだ。

 プロジェクトの当初は、W君も現場で起こっている出来事をきちんと週報で報告していた。しかし、グループウエアで報告しても、DさんからW君へのコメントは一切ない。W君は、当面は「本当に読んでいるのかなぁ」と不安になりながらも報連相は続けた。しかしDさんからのコメントがない状態が続いたので、次第に「読んでいないのではないか」という気持ちがW君の中で強くなっていった。

 「読んでくれている」という実感が湧かないと、「ちゃんと報告しよう」という気力は続かない。W君からの報告は「順調」「問題なし」といった内容のものが増えていった。W君がX社の問題に気付いて対処していた時にも、「報告してもなしのつぶて。自分自身の作業も忙しいので、さらっと報告するにとどめよう」と考えた。そのため問題があっても「開発作業がやや遅れ気味」といった、いいかげんな報告で済ませていたのだ。

 つまりDさんがリーダーから受け取った報告書の内容で深刻なものが減っていたのは、プロジェクトがうまくいっていたからではなかった。リーダーの意欲が下がって、報告書の内容がいいかげんになっていたからだった。