「うちのメンバーは、いくら言っても報連相が十分にできない」。こういう発言をPM(プロジェクトマネジャー)がすることは多い。しかしそれは本当にメンバーのせいなのだろうか。実は報連相がうまくいかないのは、メンバーではなく聞く側のPMに問題がある場合も多い。

 PMに問題がある場合、その問題はそもそも人間が感情を持つ生き物であることから起こっている。報告や連絡をして伝えた情報をPMが有効活用してくれるからこそメンバーは報告や連絡をする。PMが親身に考えてくれるからこそメンバーはPMのもとへ相談しに行く。

 もしメンバーが報告するたびにPMから叱責を受けたり、連絡するたびにPMから変な指示が返ってきたりするとどうなるか。メンバーは、だんだんとPMと距離を置くようになるだろう。こうなるとPMが「報連相を怠るな!」と命令し続けても、コミュニケーションはうまくいかない。報連相が十分でない場合、PM側に問題がないかどうかを確かめる必要がある。

「ドアは開けた」のに誰も来ないTさんのケース

 TさんはSEとしての高い技術力で実績を積んだ結果、最大15人のメンバーを擁するシステム開発プロジェクトのPMに任命された。

 プロジェクトの最初に、Tさんはメンバー全員を前に「外国映画でボスが“ドアはいつでもオープンだ”と言うように、僕のドアもいつも開いているから、ささいなことでも報告してください。もっともご覧のとおり、僕の席もみんなと同じ場所だから、ドアはないけどね」と、ユーモアを交えて挨拶した。メンバーもにこやかに受け止め、プロジェクトはスタートした。

 真面目なメンバーたちは最初のうちは、その言葉通りきちんとTさんに対して報告、連絡、相談を行った。プロジェクトはうまくコントロールされているかに見えた。

 ところがプロジェクトの後半になって「セキュリティ要件が甘い」「ある人のプログラム品質が極端に悪い」「テストケースが不十分」などの問題が一気に吹き出た。プロジェクトは2カ月遅れになってしまった。

 「なんでこんなに問題があるんだ。こんな重要な問題はもっと早く報告しろよ!」とメンバー全員を前に怒鳴ったTさん。怒鳴りながらここ最近、メンバーからの報告が極端に減っていたことを思い起こし「だいたい最初に報連相をしろと言ったのに、なんでやらないんだ」とまた大きな声を上げた。

 Tさんの怒鳴り声に、メンバーはみんな下を向いて黙ってしまった。実はこのときメンバーは皆、報連相の大切さは分かっていた。

 実際にプロジェクト開始当初は「新しい技術なのでちょっと不安があります」「ちょっと遅れが出ているので増員できませんでしょうか」などと、Tさんに報告や相談をきちんとしていた。

 しかし、こういった報告や相談に対するTさんの反応はつれなかった。「こんな技術、今どき常識だろう。勉強不足だし、チャレンジ精神が足りないのではないか」と厳しく追及したり「なんで遅れが出たんだ。その原因をなぜなぜ5回で突き止めてから報告しなさい」などときつく指摘したりした。最後には必ずメンバーを叱責する。こういったことが、報連相のたびに繰り返された。

 その結果、メンバーは報告すべきことや相談したいことが出てきても、「結局はTさんの叱責を受けることになる」と考えてしまうようになっていた。自然と足が遠のいてしまい、結果的には、叱責を受けないような当たり障りのない内容の報告しかしなくなっていたのだ。