グローバルで適材適所:近鉄エクスプレス

 近鉄エクスプレスが抱えていた問題は、日本のIT部門と、IT部門が管轄する米国のシステム開発子会社の連携が取れていないことだった。同社は日米を含めグローバルにIT部門の役割分担を明確化し、連携体制を実現した。

 きっかけは、グローバルシステム開発プロジェクトの失敗だった(図1)。プロジェクトでは当初、開発からプロジェクトマネジメントまでを米子会社が担当した。開発力やグローバル対応が必要な点を考慮した結果だ。パッケージを利用するので、「日本側でマネジメントを担当しなくても大丈夫だろうと考えていた」と、森長純二情報システム部部長は話す。

図1●近鉄エクスプレスが実施した改革
グローバルの情報システムを開発・展開するプロジェクトでの失敗を糧に、日米のIT部門の役割分担を見直した
図1●近鉄エクスプレスが実施した改革
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 しかし、結果的にプロジェクトは破たんした。利用部門の要求を反映できなかったからだ。

 近鉄エクスプレスはこの一件で、グローバルな開発でも、日本のIT部門がプロジェクトマネジメントに深く関与しなければならないと悟った。その裏には、日米のIT部門の役割が不明確で、連携が取れていないという問題があった。そこで利用部門を巻き込み、適材適所の考え方でITの役割をグローバルで分担する方針に切り替えたのである(図2)。

図2●近鉄エクスプレスの日米IT拠点での変更点
日本がグローバルのマネジメントを主導するように変えた
図2●近鉄エクスプレスの日米IT拠点での変更点
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業務力確保に利用部門が協力

 森長部長は、グローバルなIT部門には三つの力が必要だと話す。一つめは、新技術を自分のものとして使える「IT力」。二つめは、業務を理解する「業務力」。三つめは、異文化を受け入れて粘り強く、かつ気配りをしながら英語でプロジェクトマネジメントを進める「グローバル力」である。

 これら三つの力を、国内外のIT拠点でいかに分担するか。同社はIT部門を改革するにあたり、この点を考慮して進めた。

 その結果、以下のような役割分担が望ましいという結論に達した。IT力は米国の子会社が担当する。「ITの専門教育を受け、米国で働くインド人技術者に、文系出身が多い日本技術者はなかなか勝てない」(森長部長)。業務力は「利用部門出身者にまさる人材はいない」(同)。グローバル力は日本人が担保する。「気配りや品質の高さの追求は日本人の方が得意。英語は訓練すればクリアできる」と森長部長は話す。

 問題は業務力を持つ人材をIT部門でどう確保するかだ。同社は三つの利用部門から、担当者を1部門あたり二人ずつIT部門に異動させた。計6人のメンバーは各国の利用部門やSEと交渉しながら、システムの仕様を定義する役割を担った。

 6人のメンバーはグローバルシステムの主要国への展開とIT部門への業務知識の引き継ぎを終えて現場に戻った。その後も日米連携の体制は継続しており、拠点間の人材交流も進んでいるという