スマートフォンが“ブーム”から“トレンド”の段階に移り、モバイル機器のカテゴリーとしてすっかり定着した。そうなると必要になるのが製品ラインアップの拡充だ。これからさらに多くのユーザーがスマートフォンに移行することを考慮すると、「ハイエンド」「メインストリーム」「ローエンド」の三つのタイプを製品として用意する必要が出てくる。

 この特集では、2012年2月27日から3月1日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress(MWC) 2012」およびその後の取材を基に、スマートフォン/タブレットのプロセッサの最新動向を見ていく。第1回はローエンド向けプロセッサが必要な理由や、ハイエンド向けで大きな課題となる消費電力の問題を中心に解説する。

ハイエンドとメインストリームは同じプロセッサを使用可能

 前述のようにスマートフォンは三つのラインアップが必要となってくるが、タブレットの場合はどうだろうか。タブレットは無線LAN(Wi-Fi)専用のものが多数あり、携帯電話事業者の扱いもまだ限定的だ。携帯電話網に接続できる製品もあるが、必ずしも通話には適さないためデータ通信専用として扱われることも多い。

 今後、LTEなどの高速な伝送方式の普及によってデータ通信ビジネスが活発になると、タブレットの取り扱いが増えると予想される。タブレットは2台目のモバイル機器としての可能性も高く、今後タブレットの普及は事業者の収益に大きく影響してきそうだ。このため、積極的に2台目としての普及を促す事業者も増えるだろう。そうなると、やはりタブレットもスマートフォンと同じく、複数のラインアップを組む必要が出てくるだろう。

 こうした背景でモバイルデバイス向けプロセッサを見ていく。これまで、モバイルデバイスのプロセッサで大きく話題になったのは、主に高性能なプロセッサだった。最新のマイクロアーキテクチャを採用し、デュアルコア、クワッドコアと進化を続け、数年前のパソコンに迫る性能を出しながらも、バッテリーで動作して持ち歩ける。こうしたモバイルデバイスを作ることができるプロセッサとして、スマートフォンやタブレット本体とともに話題になることが多かった。

 いまやモバイルデバイスがテクノロジドライバー(技術の進歩を牽引していくような製品分野)となりつつあるため、モバイルデバイス向けプロセッサの性能向上は今後も期待されている。このため、技術的な壁にぶつかって性能向上が困難になるまでは、モバイルプロセッサの性能は上がり続けることになる。先行するPC用プロセッサという「お手本」もあり、まだモバイルプロセッサには採用されていない様々な高速化の技術もある。この点で、モバイルデバイスのプロセッサに“伸びしろ”は残っている。

 モバイルデバイス向けのプロセッサの場合、ハイエンドのプロセッサを作ることができれば、メインストリームクラスの製品向けプロセッサを作ることはそれほど困難ではない。例えばコア数(クワッド、デュアル、シングル)、クロック周波数、周辺回路などで差を付け、ラインアップを分けることができるからだ。

 また、一世代前のハイエンド向けのプロセッサをメインストリーム用に採用することも可能だ。ハイエンドやメインストリームのモバイル機器の価格がそれぞれ一定の範囲に落ち着き、プロセッサにかけるコストも一定となる。そのため、価格的に変動せず、性能だけが上がっていく状態になるからだ。PCのプロセッサでも世代などが切り替わるごとに、ブランド名を変えて前世代のプロセッサを提供する、といったことは普通に行われている。

 これに対してローエンド製品は、これからしばらくは本体価格の低下が進む傾向にある。日本市場だけを見ていると分かりにくいが、海外では100ドル以下のプリペイド方式の端末が、スーパーマーケットなどで販売されていることがある。このように最初から本体そのものを安価にすることを狙って作られた製品がある。そのためには、当初から端末のコストを下げておかねばならない。