多くのユーザー企業がクラウドコンピューティングの導入で目指しているのは、「導入期間の短縮」「コスト削減」「リソースの柔軟な調達」だろう。ただし、1つめの短期導入に成功したとしても気を抜けない。ほかの2つの目的を達成できるか否かは、導入後のクラウド活用段階にかかっている。失敗事例をもとに、活用段階で陥りやすい罠について考えてみたい。

クニエ ITマネジメントサポートグループ
山本 真、櫻井 敬昭

 クラウドという新しい世界では、通常のシステム開発の現場では「あり得ない」と思えるような落とし穴が待ち構えている。それがクラウド導入プロジェクトに重大な影響をもたらし、失敗へと導くこともある。

 本連載ではクラウド化の推進に向けた4つのフェーズ、「企画」「移行」「活用」「改善」のそれぞれに潜むクラウド化に失敗する要因について、事例を基に解説している(図1)。

図1●クラウドの導入・活用では、フェーズごとに様々な落とし穴がある。今回は活用フェーズでの落とし穴を取り上げる
図1●クラウドの導入・活用では、フェーズごとに様々な落とし穴がある。今回は活用フェーズでの落とし穴を取り上げる

 前回までの『スピード導入の罠(1)何とか間に合わせたのに現場がそっぽ』『スピード導入の罠(2)「開発なし」が生んだ油断』では「移行」フェーズの話として、導入期間の短縮を目的としてクラウド化に踏み切った事例を俎上(そじょう)に載せた。「移行段階の不備」が原因でクラウド化に失敗した理由とその対応策として、「業務のチェンジマネジメント」、クラウドサービスに対する「システム移行意識」、そして「サービスレベル調整」の必要性について述べた。

 今回は「活用」フェーズについて解説したい。企画と移行フェーズでの罠を乗り越えてなんとかクラウドを導入したとしても、いざ活用という段階で「計画通りの効果を得られない」という別のリスクが待ち構えている。

 クラウド活用の失敗事例として、製造業C社の事例を取り上げる。東日本大震災を契機に直行・直帰型の営業活動の実現やオフィスの消費電力削減を計画したが、同社は活用フェーズにおける罠にはまり、クラウドの利用開始当初は想定通りの効果を生み出せなかった。

 C社がなぜ罠にはまってしまったのか、それをどのように回避すべきだったかについて、皆さんも一緒に考えながら読んでみてほしい。繰り返すが、クラウドという新しい世界では、通常のシステム開発の現場では「あり得ない」と思えるようなことが起こる。