データを自ら生み出しても、そのままでは宝の持ち腐れになる。POSデータのような単純な数値データであっても、別の分析要素を加えれば、顧客の購買動機など、新たな知見が見えてくる。次の打ち手をデータに「語らせる」秘策とは。

トリンプ・インターナショナル・ジャパン
その商品をなぜ買わない 試着データに商機潜む

 「顧客がなぜ、あるブラジャーを買い、別のブラジャーは買わなかったのか。CRM(顧客関係管理)データからは分析できなかった傾向が、見えるようになってきた」。世界最大級の下着メーカーであるトリンプ・インターナショナル・ジャパンの鈴木麻子マーケティング本部マーケティング企画室室長はこう語る。

顧客をより細かく分類

 トリンプのCRMシステムでは、50万人を超える会員を管理している。だが「会員ごとのトリンプへの親近感などが分からなかった」と鈴木室長は言う。CRMでは購買履歴や年齢、住所のような、最低限の個人情報しか管理していないからだ。このデータに顧客の嗜好を語らせるため、トリンプは昨年5月、直営店舗「AMO'S STYLE」のうち30店舗にiPadを導入し、顧客の意図を探る取り組みを始めた(図6)。

図6●トリンプの直営店
iPadを利用し顧客の来店動機や好みの下着の種類などの情報を収集。マーケティングに活用する

 顧客が来店すると、販売員がiPadと共に接客に向かう。登録会員の場合はIDなどを入力し、画面上で色やサイズ、つけ心地などから、好みのブラジャーを絞り込んでいく。すると「試着」というボタンが表示されるので「ECサイトで商品をショッピングカートに入れるようなイメージで、ボタンを押してもらう」(鈴木室長)。カートにいくつか商品がたまったら、試着室に向かう。

 実際に購入に至るのは、試着した商品の一部で、多くは再び陳列棚に戻される。だがこれこそが、トリンプが欲しかった情報だった。POSデータからはレジを通らなかった商品の情報は見えない。iPadを使うことで、新たなデータが浮き彫りとなった。

 iPadから吸い上げられる比較検討データや、そこから見えてくる顧客の意図をCRMデータと組み合わせて分析することで、「顧客をいくつかのグループに分類し、それぞれ違う角度からマーケティング施策を打てるようになる」と安藤彩子 第3営業統括部販売促進室室長代理は話す。さらにiPadを使うことで、店舗ごとの顧客ニーズの違いなどの情報も取得できるようになった。

 「売れなかった商品が、見向きもされなかったのか、比較検討の結果、別の商品に負けたかが分かる。当社は製造部門も持っているので、次の商品企画につなげられる」(鈴木室長)。店内の商品陳列などにも生かせると考えている。

 多くの企業は既にCRMシステムを持ち、顧客管理を進めている。そこに、新たな情報を掛け算して「ビッグデータ」を作れば、顧客が購買に至るプロセスや、買わなかった理由などの「ストーリー」が見えてくる。トリンプはiPadを使い既に数千件のデータを取得した。分析を深めることで、「売上増につなげていきたい」と鈴木室長は力を込める。