京都駅から特急列車で約2時間半。志賀直哉の小説の舞台としても有名な兵庫県北部の城崎温泉で、全国でも珍しいデータ活用の取り組みが進んでいる。FeliCaチップを内蔵したICカードや携帯電話を、外湯の入場券として使えるシステム「ゆめぱ」だ(図1)。

図1●城崎温泉が取り組む、温泉街のデータ活用
城崎温泉では、七つある外湯巡りが楽しめる(左)。旅館「山本屋」の高宮浩之氏(右上)が中心となり、旅館や外湯、商店にFeliCaチップの読み取り端末を設置(右下)。外湯の入場券をFeliCaチップで代用し、入浴者数などを常に把握できるようになった。
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 城崎温泉には趣の異なる七つの外湯があり、滞在中にどれだけ入れるかが楽しみの一つ。ゆめぱは、その利便性を高めるものだ。

 使い方は簡単。宿泊客が旅館にチェックインする際、携帯電話やICカードをゆめぱ端末にかざし、利用登録を行う。携帯電話を持って外湯に行き、受付でゆめぱ端末にかざせば、その場で料金を払わずに入浴できる。飲食店などの代金をつけ払いにし、チェックアウト時に精算できる仕組みもある。

 2010年11月の開始から1年が経過し、今では約80軒の旅館ほぼすべてが、ゆめぱに対応。30軒以上の商店でも使える。昨年12月は3万7601人の宿泊客が、延べ9万4364回ゆめぱを利用した。日帰りで利用する人も多い。

 城崎温泉が地域ぐるみでゆめぱを導入した本当の狙いは、宿泊客の行動データを集めることにある。ゆめぱを利用するたびに発生するデータは、常に旅館から見られる。七つの外湯の男女別入浴者数が30分おきに見られるだけでなく、宿泊客がどの店で何を買ったかも把握できる。

 「以前は分からなかった客の動線が見えるようになった。近くの外湯に多くの客が入っていることが分かれば、通り道にある地ビール販売所に従業員を配置するなどして、売上増につなげられる」と、ゆめぱ導入で中心的役割を果たした旅館「山本屋」の経営者、高宮浩之氏は効果を説明する。