本コラムの連載も6年目に突入した。始めたときは1年間のつもりでいたので、まさかこのような長期連載になるとは夢にも思わなかった。これも読者の皆様のおかげ、この場を借りて感謝の意をお伝えしたい。

 節目といえば、私事ながらこの春で新卒としてIT業界に入って丸25年となった。昨年、本誌から依頼されたセミナー講師の紹介文に「ベテランコンサルタントによる…」と書かれているのを見て、ベテランと呼ばれることに軽いショックを受けたのだが、そう思うのは本人だけである。他人から見ればもう間違いなくベテランなのだ、ということを自覚せねばなるまい。

 そんなことを考えていると、ふと机の引き出しの奥に昔の写真があることを思い出し、25年前の入社早々に新人仲間で撮った写真を引っ張り出してみた。皆、若くはつらつとして、スーツもネクタイも新しいからか身だしなみも良く、こざっぱりしている。今春も25年前の自分のような若者が大勢IT業界に入ってくると思うと、うれしいと同時にまだまだ負けてはいられないという気持ちが湧いてくる。

 筆者のようなベテランは自分の仕事をやるだけでなく、新しくIT業界に入ってくる若者を育て導く義務があるはずだ。そうだとすれば、まずは当人たちがビシツと背筋を伸ばさなくてはならない。身だしなみはその一つだ。

 しかし身だしなみについては、ITエンジニアで特に中堅からベテランの一部の方々には苦言を呈したい。筆者は仕事で、ユーザー企業とベンダーの大事な会議や面談に同席することが多い。例えば、商談の成否がかかったプレゼンの場、役員が同席するステアリングコミッティー、トラブル発生時の交渉や謝罪の場、あるいはなんらかの引き合いがありユーザーとベンダーが初めて顔合わせする場、などだ。

 このような大事な場に臨むに当たって、どのような服装をすべきか、社会人であれば一度や二度は研修を受けたことがあるはずだし、知識としては誰でもそれなりに知っているはずだ。ところが、現実はかなりだらしない身なりのITエンジニアにしばしば遭遇する。先に述べたような大事な勝負の場に、スーツの上着は皺だらけ、ズボンのクリース(折り目)は消えてよれよれ、そして靴は汚れ・傷・いたみで見るも無残といった状態でやってくる。

 これはお洒落をするとかしないとかの問題ではなく、ビジネスマナーの問題である。ビジネスにおける服装の基本は相手に対する礼儀だ。言葉でどんなに耳あたりの良いことを言ってアピールしても、身だしなみの礼儀を欠いていれば、それは相手には瞬時に分かってしまうのだ。

 自分の身だしなみに無頓着な人は、他人の身だしなみにも関心がないので気が付かない。しかし、身だしなみをきちんとしている人は他人に対しても非常に敏感である。そして、決裁権を持つ経営者やマネジャーなど上位職種の人たちの身だしなみを観察してみるとよい。だらしのない格好をした人はほとんどいないことが分かるはずだ。「外見より中身だ」などと開き直っていてはダメなのである。

 ITエンジニアが自分のスキルや知見を最大限に売り込む第一関門となるのは、スキルシートではなく身だしなみである。よれよれのズボンと汚れた靴では初対面の3秒で切られてしまうのだ。「いまのSEはだらしない感じだからダメでしょう」というキーパーソンの言葉を筆者は何度聞いたことか。

 そして、この身だしなみの悪い人は若手ではなく、中堅からベテランに多いのが特徴である。惰性と慢心、これが一番怖い。だから、時々初心に立ち戻ることが大切だ。

 4月はスーツに丁寧にブラシを掛け、ズボンのクリースをアイロンで入れ、自分できれいに磨いた靴を履いて出社してみたらどうだろうか。きっと新人の頃のフレッシュで前向きな気持ちを思い出すことができるはずだ。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、