日本Androidの会が主催するイベント「Android Bazaar and Conference 2012 Spring(ABC 2012 Spring)」が、2012年3月24日に東京大学本郷キャンパスにて開催された。11会場を合計50件以上の講演が埋め、展示会場「バザール」では65件の出展がある大型のイベントとなった。
今回の記事では、クラウドとスマートフォンの時代の新ルールと新ビジネスの姿を考える議論のサンプルとして、日本Androidの会の丸山不二夫会長による基調講演、総務省の谷脇康彦氏による招待講演、産総研の高木浩光氏による個人情報の扱いに関する講演、クレイジーワークスの村上福之氏による新ビジネス立ち上げの経験を語る講演を取り上げる。
丸山会長の基調講演では主要クラウドベンダーの動きを紹介
基調講演は、日本Androidの会 会長の丸山 不二夫氏による「変貌するWebの世界──クラウドとクラウド・デバイスのインパクト」。クラウドをめぐる米国主要IT企業の動きを俯瞰する内容となった。
今回の講演で丸山氏が強調した点を要約すると、次のようになる。
(1)21世紀の最初の10年で、携帯電話の普及率は15%から約80%に急増した。インターネット普及率は8%から約30%に伸びた。この間に、Google上場、クラウドサービスAmazon EC2登場、Microsoft Azure登場などの出来事があった。
(2) スマートフォンなどが搭載する半導体プロセッサの集積度は上がる一方である。4コア以上を集積したTegra3プロセッサを搭載した機種も発表済み。2005年から2010年にかけて全世界のトランジスタ数は15倍になり、2015年にかけては200倍に伸びるとの予想がある。こうした高い処理能力も、ユーザーはおそらく使い尽くすだろう。
(3) 米AppleのiOS、米Google主導のAndroidがクラウド・デバイスのOSとして普及しているが、MicrosoftのWindows Phone、米AmazonのKindle、さらにFacebookが携帯電話型デバイスを計画中と伝えられる。一方、AppleはiCloudサービスを開始した。このようにクラウド時代の主要なIT企業(Apple、Google、Facebook、Amazon、Microsoft)が自前のクラウドとクラウド・デバイス、マーケットを持つようになってきた。
(4) スマートフォンによるトラフィック急増で、日本の通信事業者の通信障害が頻発した。IPネットワークではなく、携帯電話網の制御信号が増加して処理が追いつかなかった。iOS 4.1、Android 4.0ではこれらの制御信号を減らすための改善が施されているが、残念ながらAndroid4.0搭載機種はほとんど出回っていない。
(5) 今はスマートデバイス向けのネイティブアプリが主流だが、マルチデバイス/マルチスクリーンの世界ではHTML5が中心的な技術となるだろう。マルチコア・プロセッサでパワーアップしたデバイスがそれを支える。リアルタイムなWebのニーズが高まっているが、それをHTTPだけで実現する場合、HTTPヘッダ部分だけでトラフィックが過剰となる問題が顕在化する。その解決策としてHTML5 WebSocketの重要性が高まるかもしれない。
(6) 個人の視点が重要。ITが現代の個人の自由を支えている。そして今後、個人情報の扱い、情報の共有のあり方が変わってくるだろう。
(7) 音楽市場、映像コンテンツ市場は要注目。新メディアと旧メディアの対立の構図がいっそう明確に。コンテンツ配信のUltra Violetは旧グループの巻き返しか。米国のSOPA(the Stop Online Piracy Act)法案をめぐり産業界は賛成派、反対派に割れた。
(8) プライバシー情報の扱いに要注目。Google、Apple、Facebook、Amazonはプライバシーポリシーをたびたび変更しているが、それは彼らのビジネスに深く結びついているから。
このように丸山氏は主要クラウド企業の動きを中心に各トピックスを俯瞰しつつ、最後に「若い世代が深く考えて大胆に行動して、日本の現状を変えて欲しい」と結んだ。
丸山氏の講演内容は情報量が多く一言ではまとめられないが、感想を述べると「IT革命はこれからが本番だ」との印象を持った。スマートフォンなどに搭載されたSoC(System-on-a-chip)など多種多様な集積回路が出回る結果、地球上のトランジスタ数(=演算処理能力)は急増している。人類は過去数十年の蓄積をはるかに上回る処理能力を今後数年で得る。またクラウドを活用した音楽・映像配信を始めとする多種多様なサービスのためのビジネス基盤の整備とルール作りが、世界的に同時並行の形で進んでいる。そしてこの急激かつ大きな動きに対して、日本の技術者には対応できる潜在能力がある、と丸山氏は期待しているようだ。