破壊的なイノベーション(革新)と企業の関係に着目した一連の書籍で知られるクレイトン・クリステンセン博士の最新刊である。博士は1作目の「イノベーションのジレンマ」で、破壊的な革新によって優位を脅かされる企業が陥る落とし穴を明らかにした。続編の「イノベーションの解」では、革新を起こす側の視点で行動指針をまとめた。本書では革新を起こす人と組織を詳しく分析し、その方法論を示している。
多くの事例のなかで、博士が最も革新的な起業家として評価するのが、米セールスフォース・ドットコムを1999年に創業したマーク・ベニオフ氏である。ソフトウエア産業で働いていたベニオフ氏は米アマゾン・ドット・コムや米イーベイの台頭を目の当たりにし、業務システムとアマゾンの融合を思いつく。つまりインターネットを通じてソフトウエアを提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」である。
博士はベニオフ氏ら創業者へのインタビューを通じ、革新を起こす人には五つの「発見力」があると分析した。1点目は認知のスキルで、無関係に見える問題やアイデアを結び付ける「関連づける力」だ。残る四つは「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実験力」の行動的スキルである。博士は、関連づける力を中心に、残る四つの発見力が補完的役割を果たすことを明らかにした。本書が示した素晴らしい発見だ。
五つの発見力を伸ばす訓練法も提唱している。例えば、関連付ける力を伸ばすには「新しい関連づけを強制する」「別の会社に成りすまして考える」などの訓練が有効だとしている。企業の「DNA」に着目した分析も興味深い。革新を生み出すDNAは企業の「人材」「プロセス」「哲学」の三つに組み込まれると指摘し、それぞれの特徴を分析している。
本書の指摘はある意味で驚くほどの内容ではない。しかし革新者のコンピテンシーをこれほど実践的かつ体系的にまとめた研究はなかった。革新的な組織を目指す人々から長くバイブルとして読まれるだろう。
イノベーションのDNA
クレイトン・クリステンセン/ジェフリー・ダイアー/ハル・グレガーセン著
櫻井 祐子訳
翔泳社発行
2100円(税込)