デスクトップの仮想化がようやく実装のフェーズに入ってきた。今後は、一般的なデスクトップの利用形態として定着していくだろう。シトリックスは、2010年10月に「Citrix XenDesktop 5」、2011年9月に「XenDesktop 5.5」と「Citrix XenApp 6.5」を発表して、ユーザーの仮想デスクトップ利用の利便性向上や、管理者の負荷を軽減する仕組みを強化した。本稿では、シトリックスのデスクトップ仮想化のオーバービューを解説し、新しいバージョンによって強化された機能についても紹介していく。

多様なユーザーに最適を提供する「FlexCast」

 シトリックスの考えるデスクトップ仮想化は、単純にデータセンターにVDI(Virtual Desktop Infrastructure)方式で仮想デスクトップを集約させるような手法ではない。

 デスクトップ環境の利用者には、比較的シンプルな定型業務を中心に行うユーザー、インターネットを駆使してさまざまな情報を収集・利用するユーザー、設計・解析エンジニアなど、さまざまなユーザーが存在する。CPUやGPU、メモリーリソースを必要とするユーザーもいれば、自分のデスクトップ環境そのものを改良しながら業務を遂行するユーザーもいる。シトリックスは、これら多様なユーザーに対応できる仕組みを持たなければ、デスクトップ仮想化がユーザーの利便性を向上していくことは難しいと考えている。

 そこで、大きく五つのタイプのデスクトップ環境を定義して、さまざまなユーザーに最適なデスクトップ環境を提供するテクノロジーを用意している。

 このように、ユーザー環境に応じた最適なデスクトップ環境を提供するソリューションを「FlexCast」と呼んでいる。以下、ユーザーのタイプと適したデスクトップ環境について解説する。

(1)定型業務のみを行うユーザー
 メニュー画面やスタートメニューから定型のアプリケーションのみを実施するユーザー。実際の企業ではこのような使い方のユーザーが多数を占めるだろう。このようなユーザーには2通りのパターンがある。1~2種類の限定されたアプリケーションだけ使えればよいユーザーと、通常は定型業務しか行わないが、状況に応じてWebブラウザーなどの一般的なデスクトップ環境で利用できるツールを使用するユーザーである。

図1●XenAppによるユーザーへのサービスイメージ
図1●XenAppによるユーザーへのサービスイメージ

 前者の場合は、XenAppの公開アプリケーションという仕組みを使って、利用するアプリケーションだけをユーザーに見せる方式が有効だ(図1)。ユーザーは必要最小限の機能・情報しか利用できないのでセキュリティ要件の高いアプリケーションにも応用できる。

 後者の場合は、XenAppの公開デスクトップという仕組みか、XenDesktopのVDI方式でのデスクトップ画面の提供が適している。単純なデスクトップ画面だけがあればよい場合はXenAppを利用し、Windows XPやWindows 7のデスクトップが必要な場合はVDI方式を利用するのがよいだろう。

 VDIを展開するバックグラウンドの仕組みとして、プロビジョニングサービス(Citrix Provisioning Services、以下PVS)とマシンクリエーションサービス(Machine Creation Services、以下MCS)の「プール」という二つの方式がある(図2)。

図2●XenDeskopを利用したユーザーへのサービスイメージ
図2●XenDeskopを利用したユーザーへのサービスイメージ
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 詳細は後述するが、それぞれに特性が違うので、ユーザーの生産性と、管理者の利便性を考慮して検討してほしい。

(2)デスクトップOSを活用するユーザー
 情報システム部から提供されたデスクトップ環境だけではなく、自分の業務に応じてアプリケーションをインストールしたり、OSをカスタマイズしたりする必要のあるユーザーが当てはまる。全体の割合としては少ないが、どの企業や団体にも必ずこのような環境が必要なユーザーが存在するのが一般的だ。

 このタイプのユーザーの場合もVDI方式が適しているが、ユーザーによるOSのカスタマイズを許可した上で、いかにデスクトップ展開の負荷を減らすかが課題となる。シトリックスでは、テンプレートなどを利用してハイパーバイザー上に仮想マシンを展開する方法と、上述したMCSの「専用」方式を利用してデスクトップの展開を容易にする方法を利用できる。