NTT 堀越博文氏
NTT 技術企画部門次世代ネットワーク推進室ネットワーク技術担当部長 堀越博文氏
(写真:北山宏一)

 なぜ加入電話網(PSTN)をIP網に移行させるのか、なぜ固定電話用のIP網を中心にした議論になっているのか---。こうしたPSTNマイグレーションに関わる技術的な疑問について、NTT 技術企画部門次世代ネットワーク推進室ネットワーク技術担当部長の堀越博文氏に聞いた。

なぜPSTNをIP網に移行させる必要があるのか。

 IP技術の普及によってユーザーのニーズが変わったことに対応するためだ。ユーザーが通信サービスに求めるものが音声だけでなく、高精細な映像、インターネットなど多様な用途に広がった。そしてその多くが、通信にIPを使う。このようなニーズに対応するためには、基盤となるネットワークもIP技術を使って、すべてのアプリケーションを扱えるように構築したほうが効率が良い。ネットワーク機器メーカーの開発体制も含めて、それが通信分野全体の大きな流れだ。

コミュニケーション手段が多様になっている今なら、電話の機能にこだわる必要はないのではないか。

 確かにコミュニケーション手段は多様化した。それでも、信頼性が高く品質が安定しているネットワークを使い、電話番号を入力するという馴染みのある操作でコミュニケーションをとりたいというニーズは根強い。警察や消防などの緊急機関、災害時の行政側の対応窓口など社会インフラにかかわる分野でも、電話番号できちんとつながるサービスが必要とされている。

 オープンなインターネットではこうしたサービスまでは提供しにくい。信頼性やセキュリティが確保された、安心して使えるネットワークが必要になる。

最近はスマートフォンなどモバイルの台頭が目覚ましい。にもかかわらず、なぜ固定電話用のIP網を中心にした議論になっているのか。

 社会的なニーズがモバイルに移ってきているのは事実。それは、災害時にモバイルにトラフィックが集中する傾向からも明らかだ。今後の通信インフラの在り方は、ユーザーのネットワーク利用動向に合わせて、トータルに考えていく必要がある。

 ただ、だからといって固定電話網のIP化についての議論が必要ないということにはならない。NTTグループとしては固定網もモバイル網も、最終的にはシームレスにつなげたい。そのために、技術仕様や安定性を両方とも合わせる必要がある。

NGNは、PSTNと同等の信頼性を担保できるのか。

 NGNを構成する通信機器は汎用の製品であり、従来の交換機とは品質基準が違う。我々はそうした製品をそのまま使うのではなく、万単位の検証工程で不具合をつぶして品質を高める努力をしている。

 端末の多様化に伴う課題はあるだろう。PSTN時代は端末は電話機だけで、災害などよほどのことがない限りトラフィックは予想できたし、そのための設備の増強も計画できた。

 ところが今は、トラフィックは音声だけではない。スマートフォンのようにパソコンと同等のトラフィックを生み出す端末は爆発的に増えていく。今後を考えれば、M2M(マシン・ツー・マシン)通信のような新しい使い方も次々に出てくるだろう。その中で通信品質の維持はハードルが高い課題だ。NTTとしては、メーカー、標準化団体などパートナーと協力してIP時代にも信頼性を担保したい。