電話交換機で構成する加入電話網(PSTN=Public Switched Telephone Networks)のサービスや機能を、IP技術で作ったネットワークに移行(マイグレーション)する、「PSTNマイグレーション」計画が動き始めた。

 2010年11月にNTT東西は「2025年をメドに電話交換機の運用を停止し、PSTNからIP網に音声通話などの基本サービスを移行する」計画を「概括的展望」として発表。10年以上先のPSTNの運用停止に向け準備を開始している。

 2011年秋には、IP網への移行を実現するため、NTTグループ内だけではなくKDDIやソフトバンクなど他の通信事業者との本格的な協議も始まった。これを受けて総務省でも、IP網への移行期および移行後を見据え、競争環境をどう整備するかや、加入電話ユーザーをどう保護するかなどを検討している。

基本的な音声サービスはIP網へ移行

 PSTNマイグレーションとは、簡単に言えば、加入電話網を構成する電話交換機をなくす、ということだ。

 現在NTT東西の通信設備への投資は、ほとんどがフレッツ光などIP系サービスに使われるものが中心になっており、加入電話網への新規投資は既に10年ほど前に「原則的に停止」している。メーカーにとっても需要の少ない電話交換機を保守、維持するために、技術を継承するのは大きな負担になっている。

 こうした状況から、加入電話網とIP網への2重投資をやめ、サービスをIP網に一本化するのは自然な流れと言える。そこでNTT東西は、2025年を一つの区切りとして、「電話交換機の維持が限界を迎える時期」と決めた。

 しかし、このまま何も準備せずに2025年が来た時点で、加入電話網の運用を停止すればよいというわけではない。ピーク時に比べればだいぶ縮小したとはいえ加入電話の需要はあるし、他の通信事業者のサービスへの影響も無視できない。

図1●NTT東西は加入電話網(PSTN)を2025年に廃止する計画
図1●NTT東西は加入電話網(PSTN)を2025年に廃止する計画
加入電話網を構成する電話交換機の維持が難しくなるため、2025年に運用を停止する。加入電話網を使って提供しているサービスのうち基本的な通話サービスはIP網に継承するが、ISDNなどいくつかのサービスは終了する予定。
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 まず影響が及ぶのは、加入電話網を使って提供中の各種通信サービスを使い続けるユーザーである。加入電話のユーザー数はNTT東西合計で3000万件以上と、まだフレッツ光ユーザーの約2倍のボリュームがある。「2020年頃になっても1000万~2000万件はメタル回線を使うユーザーは残るだろう」とNTT東西は見ている。こうしたユーザーに対しては「加入電話に相当する基本的な音声サービスをIP網へ継承して提供を継続する」としている。

 一方で、ユーザーが少なくなったり、ISDNサービスのようにIP技術ではそのままの仕組みを継承できなかったりするものは、順次終了する(図1)。