アジアでの事業強化を加速している大和証券グループ。香港の現地法人を、最重要市場のアジア・パシフィック地域を統括する第二本社と位置付けている。香港現地法人で同エリアのIT戦略などを手掛ける大和証券キャピタル・マーケッツ香港現地法人の岩井賢 董事総経理に、グローバルでのIT人材育成方法などについて聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コンピュータ


大和証券キャピタル・マーケッツ香港現地法人の岩井賢 董事総経理
大和証券キャピタル・マーケッツ香港現地法人の岩井賢 董事総経理

香港現地法人のIT部門の状況は?

 アジアでの業容拡大が進み、急速に人を増やしている。2012年1月時点では、この2~3年で3倍弱の増加となる80人体制だ。そのうち日本人IT要員の駐在は、欧米拠点に比べ香港が最も多くなっている。

 人口が少なく、世界の大手金融機関がひしめく香港ではIT人材が慢性的に不足しており、採用しにくい。日本人駐在員と正社員の現地スタッフに加え、業務の外注先であるインドITベンダーや米系ITベンダー、日系ITベンダーから、技術者を派遣してもらっている。このなかではインドITベンダーからの派遣が最も多い。

 IT人材を香港で現地採用するには、募集を始めてから3カ月くらいかかる。だが、インドITベンダーに頼めば1カ月もすれば必要なスキルを持つ技術者を派遣してくれる。

日本人のIT要員を海外拠点に勤務させるメリットとは?

 若手は特に、言語の習得や、海外でのビジネス経験など、実際の業務を通じて幅広いスキルが磨ける。IT部門として特に大きいのは、海外拠点で働くと業務システムの全体像が見えることだ。日系企業では総じて、日本向けのシステムは大規模で、開発や運用でも、その一部分にしか関われない。どうしても仕事が細分化されてしまうからだ。

 しかし海外拠点ではそこまでシステム大きくなく、機能も複雑ではない。複数の業務システムに関わることができ、システムだけでなく海外業務の全体像まで見渡せるようになる。

 さらに、日本の拠点にいるとプロジェクト管理がメインになるが、海外拠点にくると細かなことまでやる必要がある。プロジェクト管理だけでなく、開発や設計、運用などなんでもやらなければならない。こうした上流工程から下流まで幅広く手掛けるられるのも、日本とは異なる海外拠点でIT担当をする醍醐味でもある。

今後のグローバルIT人材には何が必要か?

 先ほど述べたように、海外業務やシステムの全体像、上流から下流までを理解して、大事な局面ごとに「最適な意思決定」ができるようになることだ。大和証券グループとしての考え方、方針を理解して、それを現地スタッフや外注ベンダーに伝えて、業務をまわしていく「マネジメント力」も重要になる。

 厳しい言い方をすると、意思決定とマネジメントができないIT人材は、外注ベンダーから派遣してもらう技術者で代替できてしまう。外注ベンダーと差異化できる能力を、実際に海外拠点で仕事をしながら身に付けさせる取り組みが必要で、本人もそういう意欲を持つべきだ。

 海外に人を送り込んで時間をかけて育てる施策は、欧米企業に比べて日本企業は遅れていた。しかし、何かを始めるにあたり、遅すぎるということはない。今からでも日系企業は、体系的なグローバルIT人材の育成に乗り出すべきだろう。