シンガポールや中国・上海に続き、香港でも宅急便サービスを開始したヤマト運輸。香港では、2011年2月にサービスを開始し、1年間で宅急便の取り扱い数は約10倍になっている。ヤマト運輸の香港現地法人である雅瑪多運輸(香港)でITを担当する牧崎尚之 総経理に、現地での業務などを聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コンピュータ


雅瑪多運輸(香港)の牧崎尚之 総経理
雅瑪多運輸(香港)の牧崎尚之 総経理

香港でIT担当になった経緯は?

 ここではITだけでなく、営業担当者の管理、宅急便サービスの品質管理など複数業務を担当している。実は私は、日本ではIT部門にいた経験はない。香港現地法人の社長から「営業だけでなく、IT担当も頼む」と言われたときは驚いたが、説明を聞いて納得して引き受けた。

 社長の説明では、海外拠点の立ち上げ時期では特に、ITに詳しい人間よりも、宅急便業務に詳しく営業経験のある人材が必要とのことだった。さらに法人向けの営業では、ITの知識もないとうまく商談も進められないという背景もある。

法人営業ではITの知識が求められるというのはどういうことなのか?

 法人向けのサービスでは、顧客側の受発注や倉庫管理などの業務システムと、ヤマト運輸側の宅急便システムを連携させる必要があるからだ。具体的には、顧客が発送する商品に、ヤマト運輸側でどういうトラッキング番号を付与するかなどの作業がシステム的に発生する。

 こうしたシステム連携の必要性や技術的な話もある程度理解していないと、円滑な商談につながらない。

IT部門が未経験だったことでの苦労はあるか?

 海外用の宅急便システムがどういうものなのかの勉強は必要だったが、IT関連の業務だけで苦労した感覚はない。これは、海外拠点用の宅急便業務システムは日本に設置してあることも大きい。こちらでシステムを管理する必要はないからだ。香港から日本のシステムを使うためのネットワーク環境の整備は重要だが、幸いにも香港の通信環境は良好。ネット障害などで困ったことは今のところない。

 とはいえ、アジア拠点への赴任は初めてなので、どのようなネット環境なのか、実際に来て調べるまでは不安だった。先に開業した上海拠点では、ネットの開通にかなり苦労したという話を聞いていたからだ。

 振り返ると、拠点立ち上げで大変だったのは、オフィスの場所決めや現地の営業担当者の教育、社内システムやネット環境の整備などの複数業務を同時並行で進めなければならなかったことだ。日本では、システムやネットなど、IT関連の設備は既に整備されていることが前提で業務をしてきた。しかし海外に出ると、最初は何もない。国・地域によるネット環境の違いなど、すべて自分で調べて行動しないと、何の業務も進まない。人員も限られるので、自ら動く人間でないと、IT担当でも営業担当でも、海外での仕事は無理だろう。