ITの重要性が増す一方で、情報システム構築プロジェクトの失敗が後を絶たない。ビジネスプロセス・アーキテクト協会(BPA-P協会)はプロジェクトの成功確率を上げるヒントを得るため、「プロジェクトのつぶやき」研究チームを立ち上げた。本連載は研究チームによる成果の一端を、エピソード形式で紹介している。

 前回(安すぎる見積もり金額に要注意)では、システム構築を依頼するベンダーを見積もりの安さだけで判断した企業を紹介した。今回は、老舗のビル管理会社A社の例を紹介しよう(登場人物はすべて仮名)。


 A社は不動産建築業の子会社である。従業員数は500人強、売り上げは600億円。業界では堅実経営で知られており、ここ5年は営業利益も経常利益も黒字だった。今期は世界不況のあおりを受け、事業は苦しい状況にある。

 A社の情報システム部門は6人で平均年齢45歳。オフコンの時代から、ベンダーX社に開発や保守を依頼しており、システム部門は主に運用のトラブル対応と内部管理業務に奔走している。

シーン1:A社社長室
「システム運用の原価計算を明確にせよ」

 情報システム部門の大石部長は、後藤社長から呼び出しを受けた。

後藤社長:情報分析系のシステム、ようやく動き出したようだな。私はITのことはよく分からないが、ずいぶん苦労したみたいだね。

大石部長:はい、付き合いの長いX社に開発を任せたのですが、何しろ一から手組み---我々はスクラッチ開発と呼んでいますが---で作ったもので、何だかんだで1年かかりました。

後藤社長:とにかく無事動いたのは何よりだ。ただ、現場からは「使いにくい」「反応が遅い」などと不満の声が出ているようだ。対応を急いでくれないか。

大石部長:はい、X社の協力を得て、できるだけ早く対応したいと思います。

大石部長のホンネ
社長はITに詳しくないわりに、現場を含めた社内情報には精通している。
気を付けないとな。

後藤社長:実は今日来てもらったのは、別の相談があるからだ。近年、内部統制の整備がグループ全体で大きなテーマとなっているのは知っているだろう。親会社からの指示で、当社も早急に内部統制を充実させる必要があり、親会社側の監査人から様々な指摘を受けている。その中で、システム運用費について指摘されたんだよ。

大石部長:と、言いますと?

後藤社長:私がこの会社の社長に就任したのは今年だが、そのはるか昔から、当社はシステムについてすべてX社に任せていたそうだな。だからだと思うが、システム運用費は一括計上されおり、その中身が記録されていない。この点について指摘を受けた。「システム運用の原価計算を明確にせよ」ということだ。

大石部長:なるほど、なかなか厄介ですね。

後藤社長:だが、システムにせよ何にせよ、原価の詳細を把握するのは当然の話だ。当社にとっても良い機会だと私は考えている。この件は、経営企画室の立浪室長が中心となり、私直轄のプロジェクトとして進める。まず、システムの運用原価を明確にする案をシステム部で考えてから、立浪室長と協議してほしい。

大石部長:分かりました。

大石部長のホンネ
これは早くX社を突っつかないとまずいぞ。