東日本大震災から一年。昨年の今ごろから、企業によるソーシャルメディア活用、それも特に社内向けのコミュニケーションインフラの一つとして、ソーシャルメディアを積極的に利用しようという動きが出てきた気がする。

 東日本大震災を引き起こした地震の直後、携帯電話をはじめとした通信網がことごとく利用できなかった。その中で、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで情報を逐次入手し、家族や友人、そして上司や同僚、部下と連絡を取り合うことができた。その状況がクローズアップされ、緊急時の連絡手段としてのソーシャルメディアの活用が注目された。

徐々に広まる社内SNS

 あれから一年。こうした社内向けのコミュニケーションインフラとしてのソーシャルメディア活用は、その後はたして推進されてきたのだろうか。そして、非常時に限らず、通常業務を円滑に進めていくためのツールとしての社内SNSの活用は普及しているのだろうか。今回は、社内SNSをテーマにしてみよう。

 社内SNSはあまり外部に露出してこないため、目立たない形で活用は少しずつ進んでいるのだろう。だが、いまだ「普及している」というほどのレベルには至っていないのが現状と思われる。社内SNSを社内のコミュニケーション、そしてコラボレーションを進めていくためのツールとして活用している企業は、一部の“進んだ”企業だけというのが実情だろう。

 そもそも、これまでは「日本企業の文化」として社内SNSの活用は難しいのではないかと言われてきた。確かに、それはある意味で間違ってはいないだろう。ただ、こうした保守的な考えは一部の企業を中心に確実に変わりつつある。この流れは今後ますます加速し、社内SNSの利用は徐々に進んでいくものと思われる。

 では、社内SNSを活用していくにあたって考えなければならないこととは何だろう。

ノウハウをシェアするという意識を広めることが重要

 社内SNSを活用していこうという話が持ち上がると、必ずと言っていいほど併せて語られるのが、その有効性や効果になってくる。これらを考える前に根本的に考えなくてはならないのが、個人個人が情報、そしてノウハウをシェアするという考え方をきちんと意識するということだ。特に組織の中でも非常に仕事のできる人間ほど、ともすれば属人的に業務が進むことが少なくない。そんな中で、こういった意識を組織に属する人間全てがきちんと持つことが特に重要である。

 そのために、まずしっかりと意識しなくてはならないのは「“こんな(誰でも知っているはずの)情報をシェアする必要があるのか”と自分には感じられる情報が、シェアされる側にとっては非常に有益なものの可能性がある」というものだ。ビジネスにおけるノウハウがきちんと蓄積されていく組織には、こういった基本的なことをきちんと実践している。言い換えれば社内SNSを活用することで、コミュニケーションやコラボレーションが円滑に行える組織であるには、こうすした意識が広く共有されているということだ。

 社内SNSの話題となると、ともすれば、ツールやシステムに焦点が当たりがちになる。そして、そうしたのツールの良しあしやパフォーマンスのみが語られることが少なくない。だが、そもそも運用していく組織、そして、そこに属する人間のマインドセットが非常に問われてくることを、まず強く意識しておいたほうがいいだろう。

 実際の現場では、社内SNSといったツールやシステムに頼らなくても、こういったノウハウのシェアやコミュニケーションの場を持つことは十分に可能だ。まず、そういった場をきちんと持つことができるか、そして、それをきちんと継続させることができるか、といった点を考える必要があるだろう。社内SNSはあくまで、このための場を手軽に持つためのツールでしかなく、そもそも組織全体で使いこなしていくためのマインドセットが十分に伴っていない限りは十分に機能しないということを前提に考えていくことが肝心である。

熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)
リーバイ・ストラウス ジャパン デジタルマーケティングマネージャー
熊村 剛輔(くまむら ごうすけ)1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後PR代理店バーソン・マーステラでリードデジタルストラテジストを務め、2011年12月よりリーバイ・ストラウス ジャパンにてデジタルマーケティングマネージャーとなる。