今回の投稿は、ブランク氏の講義の受講生の一人とのやりとりです。元生徒の不満は「先生の教えた通りに、顧客の声を聞き製品に取り入れているのにうまくいかない」。ブランク氏は、彼の言い分を聞きながらその原因を探っていきます。(ITpro)

 アントレプレナーシップに必要な技能と顧客開発の科学は、ただ単に建物から出て行き、見込み顧客に耳を傾けるだけではありません。誰に耳を傾けるか、どうして耳を傾けるのかを理解することです。

「あなたの教えで、私は失敗しかけている」

 先週、私の元学生のサティシュから電話がありました。彼が話すことでとても気になったのは「あなたの顧客開発の方法に従ったために、会社が失敗しかけている」ということでした。その後の会話は、電話で理解するにはとても複雑だったので、私の農園(ランチ)に来て話そうと誘いました。

 彼が到着した時、彼は既にコーヒーを5杯も飲んだ後のようにハイでした。通常、学生を招待したときには、家の中に座ってランチにいるボブ・キャット(山猫)が獲物を捕らえようとしているのを見ることにしています。

 今回は、私たちは家を出て裏の小径を下り森を通り抜け、日がさしている谷間の下に出てきました。ランチの他の区域と同じように、この谷間は家のある丘よりも温度が5度も低く、地域限定的な気候となっています。

 谷間を上がりながら、サティシュは過去6年間に起こった、家族のこと、同級生のこと、そして彼が始めた一般消費者向けのWeb事業の話を説明し続けました。つい最近雨が降ったので、15メートルおきぐらいに8センチメートルのサラマンダーが小径をよろよろと横切っているのに出くわしました。谷の行き止まりには10メートルの階段があり、登り切ったところで突然水面が現れるのです。「高いところにある池」に訪問客は皆驚きます。突然、滑らかだったサティシュの口調がゆっくりになり、そして完全に止まりました。彼は、池のほとりにある小さい桟橋に立ち止まり、景色にすっかり見入っていました。私は彼を無理矢理そこから引き離し、池を迂回し木陰を歩いて、森を通り抜けました。

 池を迂回しながら、私は土砂の小径に注意しながら、池亀や赤足の蛙を見つけようとしました。私がここに一人で来るときは、林を通り抜ける風音が聞こえるほど静かで、少し経つと自分の心臓の鼓動音まで聞こえます。私たちはベンチに座り、池を眺めていました。池の表面を泳ぐ鴨の音だけが聞こえていました。そこで、サティシュはそれまで起こったことを説明しました。

「顧客が望んだことをすべて取り入れた」

 「あなたに教えてもらったことを、私たちはすべて実行しました。建物の外に出て見込み顧客と面談しました。加えてオンラインで多数の顧客を調査し、利用者の反応を探るためのA/Bテストも実施し、製品を実際に使っている顧客と面談する場を設けました」。これは良い試みです。

 「そして次に、最少機能の製品を作りしました」。OK、なかなかいいぞ。

 「それから、私たちは見込み顧客が要求した、すべての機能を含んだ製品を作りました」。私は驚きました。「すべて?」と私が聞くと「はい、要求されたすべての機能を取り入れ、価格も彼らの要求通りに設定しました。多くの人が私たちのWebサイトに来て、そのうちの相当数がアクティベイト(登録し実際に利用)してくれました」。

 「それは素晴らしい。ところで、あなたの価格モデルは?」と聞くと「フリーミアムです」との返事が返ってきました(訳者注:フリーミアムとは、無料版製品のこと。多くの場合、機能が多い有料版の製品も同時に提供し、容易なアップグレードにより有料版への移行を促す)

 やれやれ。次の質問に対する答えは分かっていましたが、私はあえて訊ねました。「それで、問題は何なの?」

 私はサティシュを見ながら、彼がクラスのどこにいたのかを思い出そうとしていました。そして、私は「サティシュ、あなたのビジネスモデルは何ですか?」とたずねました(図1)。

図1●アレキサンダー・オスターワルダー氏が、ビジネスモデルの視覚化のために提唱している「ビジネスモデル・キャンバス」(図中の訳は、山本雄洋と木村寛子による)
図1●アレキサンダー・オスターワルダー氏が、ビジネスモデルの視覚化のために提唱している「ビジネスモデル・キャンバス」
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