企業が「Twitter」や「Facebook」を利用して顧客や消費者と対話する試みが日本でも広がってきた。これらの「ソーシャルコンピューティング」を社内で知識共有や意思疎通に活用する動きが注目されている。本書は学習法というより、「組織を活性化させるソーシャルコンピューティング」の入門書として読める。

 米インテルや米IBM、米シェブロンなど数多くの先進事例が紹介されるが、特に興味深いのが米中央情報局(CIA)の例だ。冷戦の終結で従来からの情報活動が行き詰まる中、CIAの上級アナリストらは2005年夏、「Wikipedia」をモデルに機密情報を共有する「Intellipedia(インテリペディア)」を立ち上げた。

 イラクで連続爆破テロが起きたとき、Intellipediaには即座に「塩素を利用した爆発物」という項目が作られ、局内から膨大な情報が集まるなど、大きな成果を上げたという。Intellipediaは現在、米国の捜査機関や情報機関で広く利用されている。

 メンバーなら誰でも自由に書き込めるWiki方式やソーシャルコンピューティングには「情報漏洩の危険性が高くなる」と懸念する声がいまだにある。しかしファクシミリや郵便を使っても情報漏洩の危険性はあったし、実際に起こっていた。CIAは自らの経験を踏まえ、ソーシャルコンピューティングはリスクよりメリットがはるかに大きいと結論付けている。

 本書は情報漏洩以外にも、「時間の浪費だ」「作っても使う社員が少ない」といった典型的な企業が抱く懸念に具体例で答えてくれる。まず全体に目を通し、興味を持った部分を読むとよいだろう。

 巻末には、先進企業が策定したソーシャルコンピューティングの利用方針も収録した。特にIBMが策定したガイドラインは「現代は<マス・コミュニケーション>から<マスィズ(多数の塊)・オブ・コミュニケーション>への変化の時代である」などと的確な長期ビジョンも語られている。さすがと思わせる内容で、ぜひ参考にしてほしい。

評者:滑川 海彦
千葉県生まれ。東京大学法学部卒業後、東京都庁勤務を経てIT評論家、翻訳者。TechCrunch 日本版(http://jp.techcrunch.com/)を翻訳中。
「ソーシャルラーニング」入門

「ソーシャルラーニング」入門
トニー・ビンガム/マーシャ・コナー著
山脇智志訳
松村太郎監訳
日経BP社発行
1890円(税込)