Mobile World Congress 2012報告の最終回は、巨大ITイベントになったとはいえ、やはりイベントそのものの発祥である携帯電話網のインフラ動向について見ていこう。スウェーデンEricssonやフィンランドNokia Siemens Networks(NSN)といった欧州を代表する世界的な通信機器メーカーが広大な会場の両極に巨大ブースを構え、全体ににらみをきかせているような構図は、MWCの成り立ちを物語っているようだ。

 こうした中、携帯電話網に大きな影響を与えているのがITの世界から通信の世界に入ってきたとも言えるスマートフォンである。具体的にインフラにどのような影響を与えるのか。その大枠は非常にシンプルだが、トラフィックが急増し、その急増にどう対処するかが問われている。

パケットとシグナリングの両トラフィックが増大

 世界のスマートフォンの普及率をみると、グローバルでは10%。さらに個別に見ると、米AT&Tでは既に加入者(ポストペイド)の57%がスマートフォンを使っているという。国別に見てもシンガポールは54%、カナダが39%とスマートフォンが世界的にシェアを高めていることが分かる。

写真1●EricssonのSenior Vice President、Ericsson China & North East AsiaのPresidentであるMats H Olsson氏
写真1●EricssonのSenior Vice President、Ericsson China & North East AsiaのPresidentであるMats H Olsson氏
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 こうした状況についてEricssonのSenior Vice President、Ericsson China & North East AsiaのPresidentであるMats H Olsson氏(写真1)は、「スマートフォンの爆発は、日本だけでなく、米国、韓国などでも起こっており、トラフィックが増大している。その中で深刻なのはシグナリング(制御信号)」だと指摘する。

 Olsson氏が指摘する制御信号とは端末側とネットワーク側の通信路を確立するための信号のことで、端末、無線基地局、コアネットワーク側のパケット交換機との間でやりとりされる。2012年1月25日に東京の一部地域で発生したNTTドコモの通信障害の発端になったのがこの制御信号である(関連記事1、2)。

 一般にスマートフォンはユーザーが常時接続で使うため、パケット通信の増加に伴うデータトラフィックの増大を引き起こすが、それだけでなく制御信号も増大する。1月25日のNTTドコモの通信障害のケースでは、この制御信号の見積もりミスが原因とされた。こうした制御信号の増大への対処は世界的な課題となっている。「主要なスマートフォンの市場では、何らかの課題を抱えている。中国などでもモバイルブロードバンドが飛躍的に伸びてトラフィックが増大している。いずれこうした問題に直面していくだろう」(Olsson氏)と述べる。

 Ericssonの調査によると、従来型の携帯電話とスマートフォンの制御信号を比べた場合、無線アクセスネットワーク(RAN、Radio Access Network)側ではスマートフォンが従来型携帯電話の3倍、コアネットワーク(CN)側では2倍になるという。もちろんパソコンにデータ通信カードなどを挿して通信する場合も大量の制御信号は発生するが、スマートフォンは従来の携帯電話に代わる機器だけに、その台数はデータ通信カードを挿したパソコンの比ではない。そのためこうした問題が顕在化したのだ。