2012年2月27日から3月1日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2012」。欧州の業界団体の集まりに端を発する同イベントの規模は年々大きくなり、今年は世界205カ国・地域から6万7000人超が来場した。“世界最大の携帯電話見本市”の枕詞が付けられるMobile World Congress(MWC)だが、もはやその実態は巨大ITイベントとなっている。
展示会場をざっと見渡すと、通信機器ベンダーやスマートフォンメーカー、携帯機器向け半導体メーカー、通信事業者に交じり、米Adobe Systems、米Oracle、独SAP、米Symantecなど、錚々たる「IT企業」の名前が並んでいる。HITACHIやGREEといった日本でおなじみの名前も見られる(写真1)。もちろんIT企業といっても、通信関連事業を手掛ける部門もあったりするが、これだけの名前が並ぶイベントはそうそうないだろう。
さらに基調講演に立つのはスウェーデンのEricssonや各国の通信事業者のCEOだけでなく、米GoogleのExecutive ChairmanであるErich Schmidt氏(写真2)や米Facebook CTOのBret Taylor氏(写真3)、さらには米Ford MotorのExecutive Chairman、Bill Ford氏といった面々が名を連ねる。
GoogleのSchmidt氏は、同社のWebブラウザ「Chrome」のAndroid 4.0(Ice Cream Sandwich)対応版を基調講演でデモ(関連記事:Android用のChromeを公開、米グーグル・シュミット会長の基調講演)。パソコン用のWebページをスマートフォンで閲覧する際にリンク先の文字を拡大表示する機能などを説明した。こうした卑近な話題から切り出したうえで、世界的には情報格差がまだまだ存在するといった現状のITを取り巻く問題点を指摘。同社はそれを解消するための革新を今後も進めていくと述べ、講演後は昨年に引き続き質疑応答の時間を設け、各国から集まった来場者の質問に答えた。
FacebookのTaylor氏は、この講演でFacebookアプリなどの料金を通信事業者の利用料金に合算して支払える“キャリア課金”を導入することを明かした(関連記事:Facebookでキャリア課金、KDDIやソフトバンクの名前も)。また、Facebook自身がW3Cの「Mobile Web Core Community Group」に参加し、モバイル用Webブラウザのテストスイートである「ringmark」を提供、モバイル機器の多様化で開発者の検証が難しくなるといった問題を自ら解消していくことを宣言した。
個別のメーカーの製品発表会に目を移すと、英Sony Mobile Communicationsの発表会では今年4月からソニーの社長兼CEOに就任する平井一夫氏が昨年に続き登壇(写真4、関連記事:ソニーモバイルがXperia新製品、ソニー平井次期社長も登壇し「One Sony」を強調)。Sony Mobileが2月15日にソニーの100%子会社化になった直後ということもあり、平井氏は「One Sony」を強調。ソニーグループが持つデジタルイメージングやゲームなどのアセットをモバイル製品に取り込むことが今後の大きな成長につながるとし、スマートフォンビジネスが同社にとっていかに重要かを述べた。
こうした状況をなぞるだけでも、もはやMWCが単なる“携帯電話見本市”という位置付けには収まらない一大イベントであることが分かるだろう。モバイルが我々にとって公私に渡り当たり前すぎる存在となったことで、MWCはそれを踏まえたうえで何ができるか、何を提供できるかを見せる場になっているのだ。特にスマートフォン/タブレットが携帯電話市場の主役に躍り出た2010年、2011年以降、その裾野の広がりは顕著だ。第1回は、その広がりを感じさせる話題をこの特集の導入として以下で紹介していこう。第2回、第3回はやはりイベントの主役である最新のスマートフォン/タブレットの動向を解説。第4回はスマートフォン/タブレットがインフラに与える影響を通信機器メーカーや通信事業者はどう解決していくかについて、MWCでのインタビューや展示、デモに沿って解説する。