「グローバル化する顧客に見捨てられないように、アジア展開を急げ」。ユーザー企業のアジア進出に対応するため、国内大手IT企業もグローバル人材の育成手法を変えつつある。これまでは欧米での語学研修の要素が大きかったが、アジアでの顧客サポートを強化するため新興国へ派遣。より実践的な人材育成に転換し始めた。

NEC●日本式に染まる前に海外へ

 2012年1月17日。東京・三田にあるNEC本社の多目的ホールで、物々しい雰囲気のイベントが開かれていた。

 入社1年目の社員20~30人に対し、人事部や海外事業企画部門の幹部が次々と激励する。「海外から国内を見る目を養い、日本と現地法人のかけ橋となって積極的に行動してほしい」。

 これはNECが新入社員の一部を選抜し、2年目に海外拠点へ1年間派遣する「Global Track to Innovator(GTI)」と呼ぶ、海外若手派遣研修のキックオフイベントだ。この研修制度は、2008年度に発足。当時の社長だった矢野薫会長の肝入りで始まった。

入社2年目に海外へ派遣

 GTIの特徴は、入社1年目の社員を選抜し、2年目には海外に送り出してしまう点。他のベンダーやユーザー企業の海外トレーニー制度では、少なくとも入社後3~4年は国内で仕事をさせ、国内業務をこなせるようになってから海外トレーニーの派遣対象とするところがほとんどだ。

 なぜ入社直後にすぐ選抜するのか。NECの佐藤秀明 人事部人事マネージャーは、「日本のNECの仕事のやり方に慣れる前に、海外でのビジネス経験を学ばせるため。日本式、NEC式に染まっている我々を、戻ってきた人に変革してもらいたいという願いを『イノベーター』という名称に込めている」と説明する。

写真9●入社1年目社員を選抜して事前研修を実施し、2年目に海外拠点へ派遣するNECの「GTI」の研修風景
写真9●入社1年目社員を選抜して事前研修を実施し、2年目に海外拠点へ派遣するNECの「GTI」の研修風景

 GTIの対象者は入社1年目の下期から、英語でのメールの書き方や交渉術、フレームワーク分析の手法などを、海外への派遣前に事前研修で叩き込まれる(写真9)。国内での事前研修後に1~2年間、NECの海外拠点に送る。

 派遣先はインドやナイジェリア、スウェーデンなど、のべ27カ国・地域に広がる。ITサービス分野では、中国やマレーシア、シンガポールといった、アジア地域への派遣が多い。日系企業をサポートするためのITサービスはアジアでの需要が特に大きくなると考えるからだ。