有限責任 あずさ監査法人
金融事業部
パートナー 公認会計士 米国公認会計士
松井 貴志

 本連載は、日本企業がIFRS(国際会計基準)を導入する際の留意点からIFRSによるインパクト全般までを主要な業種別に見ていくことを目的としている。前回は不動産業におけるIFRS導入のポイントを説明した。今回から2回にわたり金融業におけるIFRS導入の留意点を取り上げる。

 銀行・証券・生損保などの金融業への影響が大きい会計基準としては、金融商品(分類および測定、減損、ヘッジ会計、資産および負債の相殺表示)、公正価値測定および開示、連結の範囲、リース、保険契約などがある。金融業では、一般の事業会社と比べて資産・負債に占める金融商品の割合が高いため、会計基準の変更の影響がより大きく表れる。

 現在これらの分野ではIFRSの改訂が進められている。以下ではこれらのうち、IFRSの改訂後の最終基準が公表されている「金融商品の分類および測定」について、概要とIFRS導入の留意点を解説する。

金融資産の分類および測定

 金融資産の分類および測定については、IFRS第9号「金融商品」で改訂後の基準が定められており、発効日として、2015年1月1日以降に開始する事業年度から適用することとしている。

 IFRS第9号では、日本の企業会計基準にはない「ビジネスモデル要件」と「SPPI要件」という概念を導入している()。IFRS第9号では、金融資産(資産であるデリバティブ=金融派生商品を含む)は「公正価値オプション」(後述)を適用する場合を除いて、ビジネスモデル要件とSPPI要件の両方を満たす場合は償却原価で測定し、それ以外は公正価値で測定する。公正価値とは取引市場があれば市場価格、つまり時価になる。IFRS第9号での金融資産の分類と測定をまとめると、のようになる。

表●日本基準にはないビジネスモデル要件とSPPI要件
要件 内容
ビジネスモデル要件 契約上のキャッシュフローを回収するために資産を保有することを目的とするビジネスモデルに基づいて資産が保有されていること
SPPI要件 金融資産の契約条件が特定の日に元本および元本残高に対する利息の支払いのみからなるキャッシュフローを生じさせるものであること
SPPI:Solely Payments of Principal and Interest on the principal amount outstanding
図●IFRS第9号に基づく金融資産の分類と測定
図●IFRS第9号に基づく金融資産の分類と測定
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 公正価値で測定される金融資産では、評価差額は原則として純損益に含めて認識する。ただし、トレーディング目的ではない資本性金融商品への投資については、取得時に評価差額を資本の項目である「その他の包括利益(OCI)」に含めて認識する会計処理「OCIオプション」を選択できる。

 このOCIオプションを適用した場合は、受取配当金については純損益に含めて認識するが、売却損益や取得後の評価差額の変動などはOCIに含めて認識することになる。いったんOCIに含めて認識した金額は、その後も純損益には組み替えない(リサイクリングはしない)ことに注意する必要がある。

 このほかIFRS第9号では、日本基準にはない「公正価値オプション」という会計処理も選択できる。

 資産とそれに関連すると考えられる負債の測定、またはそれらの資産および負債に関する利得および損失の認識が、異なるベースで行われる状況を「会計上のミスマッチ」という。例えば、資産とそれに関連する負債の一方について公正価値で測定し、評価差額を純損益に含めて認識しており、他方について償却原価で測定する場合には、両者に関する利得および損失を認識するタイミングが異なっている。

 IFRS第9号では、こうした「会計上のミスマッチ」を回避するか、大幅に削減する場合には、償却原価で計上される金融資産を公正価値で評価して評価差額を損益に計上することを取得時に選択することを認めている。これが公正価値オプションである。