次期年金システムの開発プロジェクトが、発注の失敗をきっかけに1年以上停滞していることが本誌の取材で明らかになった。設計作業を受注したIT企業の1社が役目を果たせず途中でギブアップし、再発注がなされないままの状態になっている。税と社会保障の一体改革をめぐる政治の混乱もあり、再開のメドは立っていない。

 ストップしているのは、オープン化を目指す次期年金システムのプロジェクトだ。厚生労働省は「年金記録問題」が表面化した後、既に着手していた基本設計の一部をやり直す「補完工程」を3社に分割発注した()。3社のうちシステム基盤設計を3億8640万円で受注したユーフィット(現TIS)が、契約を履行できなかった。

図●次期年金システムの調達スケジュール(補完工程)
図●次期年金システムの調達スケジュール(補完工程)

 アプリケーション設計を担当したNTTデータと工程管理支援を受注したTDCソフトウェアエンジニアリングは、それぞれ「契約どおりに作業を進めた」(厚労省年金局)。一方、システム基盤設計の進行は遅れた。その理由について、厚労省年金局は「発注側が求めていた業務と、受注側の認識との間で食い違いがあった」と説明する。ユーフィットが業務の難易度について過小評価していた可能性があるわけだ。

 厚労省とユーフィットが協議した結果、最終的にユーフィットが「継続は難しい」と同省に告げた。これにより厚労省は契約を解除し、さらにユーフィットから違約金約3000万円を受け取った。

 システム基盤設計が終わっていないため、今に至るも詳細設計に着手できない状態が続いている。厚労省はシステム基盤設計の再発注について検討しているものの、具体的な時期は決まっていない。「制度改革の内容が固まってから、改めて発注すべきだとの声もある」(厚労省年金局)。

 確かに、プロジェクトが停滞する直接の原因は、制度改革の遅れにある。制度が決まらない現段階で開発を再開するのは無理がある。だが、厚労省のシステム調達能力に問題があるのも事実だ。

 ITコスト削減のために分割発注の手法を取り入れ、安値で入札したITベンダーに発注した結果、ITベンダーの経験不足が露呈し、プロジェクトの成功が遠のく――。この構図は、1月に中止を決めた特許庁のシステム刷新と同じだ。政府はシステム調達の仕組みを抜本的に見直す必要に迫られている。