抜群の処理能力を誇る4コアCPUだが、今後1~2年間でさらに二ケタ以上の性能アップを予定する。通信速度もLTE-Advancedにより1ギガクラスになる。この大変革期に通信事業者はどんなサービス戦略を描いているのだろうか。

LTEでクアッドコア投入狙うイー・アクセス

 「2012年度内に我々もLTE対応スマートフォンを出す。今後のユーザーニーズにきっちり応えていくためには通信回線が速いだけでは不十分で、端末性能と両輪で進化させていく必要がある。従って(LTE対応スマートフォンへの)クアッドコアCPUの採用も当然視野に入っている」―。

 イー・アクセスは2012年3月15日、NTTドコモに次いで国内2番手となる「FDD-LTE」方式データ通信サービス「EMOBILE LTE」を開始。同日の記念セレモニー(写真1)に出席したエリック・ガン社長は、新サービスの今後の端末展開についてこう語った。

写真1●「EMOBILE LTE」開始記念セレモニーの様子(右からイー・アクセスのエリック・ガン社長、CMキャラクターの板野友美さん、イー・アクセスの千本倖生会長、ビックカメラ宮嶋宏幸社長)
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 業界4位のイー・アクセスは、こと端末・インフラのグローバル調達にかけては一、二を争う積極性を見せる。調達コストを抑えることができて市場投入までのタイムラグも減らせるからだろう。だが実際に適切なパートナーと組んで成果を出していくには、世界における技術の進展や標準化活動の進捗、通信事業者・メーカーの戦略などについて潮目を読み切らなければならない。もし読み誤れば、シェアも企業規模でもはるかに勝る上位3社(NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクモバイル)との差を埋めるどころか遠く離されてしまう。

 そのような目利きを生命線とするイー・アクセスが今、LTEというコア事業において「クアッドコア対応スマートフォン」の投入をはっきりと狙っている。その戦略はすなわち、世界における通信事業者やメーカーの動向を投影したものでもある。クアッドコアCPUとLTEがスマートフォンやタブレットにどんどん実装され、多くのユーザーが手にする時代がすぐそこに来ている。

Tegra 3レベルはあくまで通過点

 しかもスマートフォン/タブレット向けプロセッサの革新はまだ始まったばかり。プロセッサメーカー各社はケタ違いの高速化を目指して製品を開発している最中だ。

 本連載の第1回でも触れたが米NVIDIAは、最初のクアッドコア製品「Tegra 3」(2011年リリース)の総合性能について「デュアルコアのTegra 2を基準として最大5倍」とうたう。これにとどまらず2012年には10倍、2013年には50倍、というように加速度的に性能を高めていくとアピールしている。クアッドコアを基本にプロセスルールの微細化や処理性能の向上を図るほか、複数のCPUでコア数を増やす、特定のアプリケーション処理を支援する専用プロセッサと組み合わせる、といった方策を練る。

 さらにソフトウエアの進化も、プロセッサの性能アップを後押ししていく。これまでもAndroid 3.x系を最初に搭載したタブレット「MOTOROLA XOOM」(米Motorola Mobility製)には最新のTegra 2が搭載された。また米国で複数の報道機関が「米Googleが次期バージョンのAndroidを載せたタブレットを開発中」と報道しており(関連記事)、これにはTegra 3が採用されると予想されている。

 ケタ違いの高速化を見せるのは端末のプロセッサだけではない。無線データ通信では、LTEの10倍以上の速度を実現する無線通信技術「LTE-Advanced」の標準化活動が佳境を迎えている。LTE-AdvancedはLTEを発展させたもので、伝送速度は下り最大約1Gビット/秒(静止時)を目指して大手の通信機器ベンダーや通信事業者が技術開発を進めているところだ。